米国が日本に課す関税問題の度に語られる「国益」。しかし、その裏で日本の労働者が不平等な日米関係のしわ寄せを受けている現状を見過ごしてはなりません。敗戦から80年経っても「敗戦国」としての位置づけが残り、それが労働者の生活と権利を脅かす構造的な問題となっています。
関税が増えると労働者におよぶ影響
過去の日米貿易摩擦では、自動車や鉄鋼産業の労働者がリストラや賃下げに直面しました。現在も、米国の関税措置や貿易交渉は、国内産業、労働者に直接影響を与えます。関税が課されれば、企業は海外移転や減産を検討し、雇用不安や賃金抑制に繋がります。
さらに、日米の貿易交渉では、米国からの農産物輸入増も常に議題となります。特に牛肉や豚肉、小麦などの輸入拡大は、国内の農業従事者の生活を圧迫し、廃業に追い込まれるケースも少なくありません。これにより、日本の食料自給率低下だけでなく、農業関連産業の雇用にも暗い影を落としています。
私たちは、これらの貿易政策が労働者に与える影響について警鐘を鳴らしてきました。
自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)は、一見経済成長を促すものの、労働基準の引き下げ競争や国内産業の空洞化を招く危険性があります。労働組合は、労働者の権利保護や公正な労働条件を盛り込んだ「労働条項」の導入、国際的な労働基準の遵守を政府に求めていかなければなりません。
思いやり予算の矛盾
日米安保体制を支える「在日米軍駐留経費負担」、通称「思いやり予算」は、不平等の象徴です。日米地位協定では米軍の駐留経費は米国負担とされていますが、日本は莫大な費用を負担し続けています。これは、米国の「国家戦略」のために日本の税金が使われ、多くの労働者の生活が犠牲になっていることを意味します。
特に、在日米軍基地で働く日本人労働者(駐留軍等労働者)は、日米地位協定という特殊な枠組みの下で雇用され、日本の労働基準法が十分に適用されにくい環境にあります。
私たちは、長年、地位協定の抜本的見直しと彼らの労働条件改善を求めてきました。米軍基地内での事件・事故における裁判権の不平等や、労働災害発生時の補償問題などは、極めて不公正であり、改善されるべき課題です。彼らは日本の労働者であるにもかかわらず、日本の法律が完全に適用されないという理不尽な状況に置かれ、まさに「国益」の名の下でその権利が軽視されているのです。
日本で発生した事故
捜査権限は米国優先
7月24日、岩手県の花巻空港に緊急着陸したオスプレイの事故は、日本国民に大きな衝撃を与えました。一歩間違えれば大惨事につながりかねない事故が繰り返されるたびに、その根本原因の究明と再発防止への強い要求が高まります。
しかし、この当然の要求を阻む「壁」として立ちはだかるのが、日米地位協定の存在です。特に、事故の捜査・原因究明においてこの協定がいかに大きな障壁となっているかが浮き彫りになります。
しかし、オスプレイの事故が発生するたびに、日本の捜査機関は米軍基地への立ち入りや事故機へのアクセスを制限される現実があります。日米地位協定第17条は、米軍の公務中の行為によって生じた事故について、米軍当局が第一次裁判権を持つことを定めています。この規定が、日本の警察や航空事故調査委員会による独立した、かつ迅速な捜査を困難にしています。今回の花巻空港での緊急着陸においても、日本側の捜査当局が事故機への早期アクセスや詳細な調査が制約されたことは想像に難くありません。
安全を優先する観点からするとこれは極めて不公平であり、労働者の安全を軽視するものです。事故現場への早期の立ち入りが許されず、証拠保全が遅れれば、正確な原因究明は困難になります。
また、調査報告が透明性と公平性に欠け、真の原因が隠蔽されます。過去には、沖縄国際大学米軍ヘリコプター墜落事故や沖縄県名護市安部の沿岸部で発生した米軍オスプレイの墜落事故など米軍の調査結果が一方的に提示され、日本側が納得のいく説明を得られないまま終わっています。事故発生時における日本の捜査機関の即時かつ自由な立ち入り、証拠保全、そして独立した調査権限の確立が急務です。
このような状況は、単に事故原因の解明を妨げるだけでなく、オスプレイの配備を進められるなかで、単に機体の安全性だけでなく、運用体制、緊急時の対応、そしてそれらに関わる人々への配慮が求められていることを示唆していると考えられます。そのうえで、労働者の安全だけでなく、周辺住民の安全、さらには環境への影響も考慮すべき重要なことです。
平等な外国関係構築
これらの問題の根底には、日本の「敗戦国」としての戦後レジームが色濃く残っています。米国の経済的・軍事的優位性の下で形成された不平等な条約や慣行は、未だに日本の外交政策や経済構造に影響を与え、労働者の生活水準や権利向上を阻害しています。
労働組合として、単なる賃上げや労働条件改善だけでなく、この構造的な不平等に対し大きな声を上げていくべきです。日本の主権確立と真の独立国家としての外交関係構築は、労働者の生活と直結する問題です。不必要な軍事費や駐留経費を削減し、その財源を市民の生活、教育、医療、社会保障など、真に労働者の福祉に役立つ分野に充てるよう、現政権に強く働きかけなければなりません。
今こそ、私たちは「国益」という曖昧な言葉に惑わされず、働く者の視点から真の「国益」を問い直し、不平等な戦後レジームからの脱却と、市民が豊かに暮らせる社会の実現に向けて、さまざまな運動を展開していかなければなりません。
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