連帯ユニオン 近畿地方本部 関西地区生コン支部 近畿地区トラック支部 近畿セメント支部 労働相談-ホットライン
第1回時局講演会

第1回時局講演会 
2008年11月5日
      (主催:時局講演実行委員会)
テーマ
経済恐慌に立ち向かう中小企業の進路


対談
本山美彦教授
大阪産業大学経済学部教授
京都大学名誉教授

武建一 
中小企業組合総合研究所代表
連帯労組関西地区生コン支部・委員長
 
司会 増田幸伸
  近畿生コン関連協同組合連合会専務理事


昨年11月5日に開催された第1回時局講演会(主催:時局講演実行委員会)を撮影した映像集  「KU会

第1回時局講演会

(司会)
お忙しい中、お集まりいただきまして大変ありがとうございます。
今、世界的に金融恐慌(注1)が騒がれております。特に、建設・生コン関連では、非常にその被害が顕著に現れている状態にあるだろうと考えているところです。
従来であれば、KU会がこういう勉強会を開催していたのですが、今回は実行委員会形式で、中小企業経営者の方々に集まっていただいて、この金融恐慌の中、特に建設・生コン産業で経営を営む中小企業がどのような方向で進むべきなのか、ということについての勉強会を開催することにいたしました。
今、言いましたように、本来ならKU会が毎年春と秋にこういう勉強会を開催しておりましたが、今回は実行委員会が主催し、KU会には後援という形で賛同いただいております。今日は、お手元の封筒の中にKU会の加入用紙も入れさせてもらっていますので、まだ、KU会に加入されていない方は是非この機会にKU会への加入も合わせてお願いしたいと思います。
さて、今日は、この金融恐慌に対して、中小企業経営者がどのように立ち向かっていくのかをテーマとして、大阪産業大学経済学部教授である本山美彦先生と、生コン業界で40年にわたって労働運動をやってこられた、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部執行委員長であり、中小企業組合総合研究所の代表でもある武建一さんに討論形式の講演をお願いしております。また進行役は、近畿生コン関連協同組合連合会の増田幸伸専務理事にお願いしております。早速、3名にご登壇願って、講演に入っていきたいと思います。
申し遅れましたが、私は今日の司会を務めます、関西地区生コン支部副執行委員長の高と言います。よろしくお願いいたします。
それでは、後は増田さんの方に進行をお願いしたと思います。

(増田)
こんばんは。紹介いただきました増田と申します。今日、集まった趣旨というのは先ほど高副委員長の方からご紹介がありました。
今日は、主として経営者の方に集まっていただこうということでご案内をいたしました。今日、出席いただくということでこちらが確認した経営者のみなさんは112名です。後で駆けつけるという方もおられるでしょうけれども、今、ほぼ会場は満杯になっています。
さて、私はこの間、色んな運動に携わっておりますけれども、自分がやっている運動というのは、中小企業運動であるとか、あるいは、様々な社会運動がありますけれども、日本の様々な運動の中でどの辺の水準にあるのかな、と思うときがあります。あるいは、大げさかも知れませんけれども、世界の大きな流れと自分たちの運動はどうつながっているんだろうか、ということを思うことがあります。そういう意味では、ちょっと言いすぎかも知れませんけれども、今、関西で行われている生コン関連の中小企業運動、あるいは労働運動というのは、実は日本の最先端を行っているのではないか。あるいは、世界の流れとつながっているのではないか、という気がします。それを指導・領導されているのが武委員長・代表だろうと思います。
それと、この間、学者のみなさんの中には昨日言ったことについて手のひらを返したかのように全く違ったことを言う人がたくさんいますが、本山先生はきちっと今般の経済的な危機について、「こういう根拠でこれからこうなるのだ」ということをずっと一貫して主張されております。そういう意味では、ぶれることのないきちんとした理論的見解を持たれた先生であると言えると思います。その意味では、本山先生も日本の論壇、あるいは理論界の中で、最先端を行かれているのではないか。
そういう意味では、理論的、あるいは思想的、運動的に日本の最先頭を行かれる本山先生と武代表の2名という人材を得て、今日みなさんにこれから中小企業はどうあるべきかという進路を巡って参考になったらいいのではないか、という風に思います。
それでは早速始めたいと思います。さて今日、アメリカではオバマ(注2)さんが大統領に確定いたしました。そういう意味では民主党のオバマさんに変わって、アメリカはどう変わるのだろうか。アメリカ発の金融恐慌という危機的状況の中にあってオバマさんはどういう政策を実行するんだろう。あるいは、私たちはそれをどう見たらいいんだろうか。
ということで、まず、今日はそういった歴史的な事態が発生しましたので、まず、本山先生の方から、オバマさんが大統領になったということについてはどう見たらいいのでしょうか。

(本山)
はい。まだ分りませんけれども、少なくとも、世界に命令を下してきたアメリカですよね。自分の国のスタンダードが世界のスタンダードだと言い切ってきたアメリカが今回の金融不安で自信喪失している。そのときに、世界に号令を発してきた共和党政権が一応ひっくり返ったという意味では、広い意味での、国際的な民主主義の夜明けになるのかも知れないという期待を持っております。
ただ、アメリカの保守反動というのは非常にきつくて、オバマさんの命が永らえることを切に願います。そういう恐れも実は持っているわけであります。

(増田)
ありがとうございました。武委員長の方はどうでしょうか?

(武)
まず、今日は歴史的な日になるんじゃないかと思うんですね。それは今、お話がありましたように、アメリカでは黒人の大統領が誕生したということ。これは多分、世界的な大きなニュースでありましょう。また、今日は、テレビとかラジオで話題になっているのは、小室哲哉(注3)さんが逮捕されたということですね。彼は90年代、非常に音楽界に影響を及ぼした人のようですが、そういう非常に話題の多い時期にこの学習会ですから、きっとこれは歴史に残る日になるだろうと思います。
さて、オバマ大統領が誕生したというのはどういうことか。結局この8年間というのは共和党政権がアメリカでは続いておりましたよね。共和党政権の中で何がやられていたのかと言うと、後でお話がある、サブプライムローン(注4)というものをつくり上げた。その前からやっているんですが、特に8年間はひどかったと思うんですね。そのバクチ経済というものをつくり出した共和党。これが民主党に変わるということは、大きな変化をつくることでしょう。
それから、アフガンとイラクに対する侵略を実行したことによって、結局、膨大な軍事費を投入しましたね。それによって軍需産業や大手企業が儲かったわけです。大体アメリカは軍を民営化して、儲けるために戦場に人を派遣するという会社が多くあるようですから、そういうものは儲かっているんですね。しかし、民衆は軍隊に取られて、殺されるし、それから高い税金を払わされている。そういう意味では、アメリカは大金持ち中心の社会システムというものに向かってまっしぐらに進んできた。そして一方では、そういった人権を無視された民衆の怒りというものがあり、それが大きな変化の原動力になっているんではないかと思います。
ただ、アメリカは、共和党と民主党と言いましても、基本的にアメリカ帝国主義という側面、この資本主義体制を維持・強化する点では共通しておりますからね。言わば、変化はあるんでしょうけれど、労働者や中小企業の天下という方向に変わるようなものではないと私は思いますね。

(増田)
ありがとうございました。
さて、みなさんのお手元に、今日の資料として、「迫りくる経済危機を理解する」というパンフレットが入っていると思います。実は今年の8月ですね、ラジオ関西、AM神戸ですが、ここで本山先生と武委員長が対談をされております。このパンフレットは、この集会案内のときにお渡ししているので、「これは見たよ」という方もおられるかも知れませんが、ここで非常に理解しやすい形で、今回のサブプライムローン問題に端を発した金融危機について展開されております。武委員長が質問されていく中で本山先生がその本質を語られるという内容になっています。
これを一つの下敷きにしながら、今、マスコミなどでも話題になっていますが、私たちの生コン関連産業においても、非常に停滞状況にあるわけですが、今後これはどうなるのか、なぜ、こういうことになったのか。ということについてですが、本山先生の方に、この金融恐慌・危機についてのご説明・解説をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(本山)
そうですね、一番分りやすく申しますと、株が暴落(注5)しておりますよね。これは誰でも分かる。史上最大の下げだということで、どんどん下がっていっている。乱高下を繰り返しているんですね。
ここがポイントで、私たち素人が株を持っていたときに、私も若干持っているんですけれど、これだけ株が暴落しますと、普通は損してまで売りませんよね。私たちは「塩漬け」しますよね。ところがプロ中のプロである株を扱っている連中が、どうして大損をしてまで株を売ろうとしているのか。ここが一番大きなポイントになるんじゃないかと思います。
彼らプロが金融で色んな仕事をするときに、ファンド(注6)という組織からお金を預かって、それを色んな物件に投資しているんです。これがサブプライムローン問題です。(貸したお金が)焦げ付いた。お金が返ってこない。しかし、ファンドというのは大体3ヶ月が期限ですから、「金を返せ」となる。そうなってくると、そのファンドからお金を預かっていた、主として投資銀行ですが、そこが資金繰りに困るんですよ。まさに、現ナマ(現金)に困る。ちょうどカール・マルクス(注7)が「恐慌とは現金を求めて右往左往することである」と言った、まさにそのことであります。現ナマが欲しいわけなんです。
現ナマとなってくると、すぐ換金できるものというのは株しかないし、その株も、現ナマが欲しいわけですから、金にならない株を売っても仕方がない。だから優良株から売っていきます。ですから、株式の暴落というのは、まず優良株から売られていくんですよね。「あそこは危ない」というのではなくて、「金になる」ということでどんどん換金していくのであります。
ところが地獄の恐さというのは、今度は株が下がることによって儲ける連中が出てくるわけですね。これが「空売り」(注8)であります。どんどん空売りする。急転直下、株が下がれば下がるほど空売り業者儲かるというので、株の暴落が加速化されていくというのが真相なのであります。われわれが持っている株と違うんだということを分ってほしい。現ナマを求めて走り回っているんだということであります。
そこで、ポイントとしては三つお話させていただきます。一つは、投資銀行という組織が歴史的になくなったということ。将来の歴史家たちは今日の状況を「投資銀行が消滅した」というところをポイントに置くだろうと思います。
そこで、投資銀行とは何かということを説明しなければいけないんですが、私たち日本人が普通「銀行」と言うときに思い浮かべるのは、私たちから預金を集めて、その預金を企業に融資していくという銀行ですね。これを「商業銀行」あるいは「預金銀行」と言います。私たち日本人はそれが当たり前のものだと思っていたから、今回、ちょっとだけ被害が小さかったんですね。
ところが、この商業銀行は非常に大きな規制があります。取引のあらゆるものを金融当局に明らかにしなければならない。そして、預金ではなく自己資本の最大12.5倍しか貸し出しすることはできない。これが自己資本比率8%という意味なんであります。これは明らかに日本の銀行いじめだったんですね。日本の銀行は自己資本はろくに持っていなくて、預金高で競っておりました。日本の銀行は世界一の預金獲得者でありました。ですから私たちは、「日本の銀行というのはすごいものだ」「アメリカの巨大銀行と言っても、日本の地方銀行よりも小さいんだ」と言っていましたが、それは預金額で見ていたのであります。
そうすると、預金額というのは他人から預かったものであって銀行自身のお金じゃない。本当の銀行自身のお金の12.5倍しか融資してはいけないんだという、これを「バーゼル規定」(注9)と言うんですが、バーゼル規定をはめられまして、日本の銀行がほぼ壊滅状態になったというのはみなさんお分りだろうと思います。日本の銀行いじめだったのであります。
そして、日本人は、そうやっていじめられて、「じゃあ一生懸命やろう」ということで、今度は貸しはがしをやってみたり、貸し渋りをやってみたりして、自己資本を増やしていく方法を懸命にやりまして、8%の条件はクリアできた。とにかく商業銀行の足腰を強くするんだという方向だったんですね。
ところが、アメリカはさっさと「商業銀行よさようなら」「われわれにはそんな規制の強いところはだめだ」という方向に向かったんです。ただし、(商業銀行は)規制がきつい代わりにいざ倒産というときになったら、公的資金=税金を使うことが許されるというのが義務であり特権でした。これを覚えておいて下さい。
そして、「こんな規制の強いことはやめた」ということで大きくなってきた銀行、これを「投資銀行」と言います。投資銀行というのは、私どもから預金を預かりません。大金持ちから一口何億円という形で資金を集め、しかも秘密を守らなければならないから50人を超すことはないという、そういう大金持ちクラブがファンドなのですが、そこからお金を得て、それをまた投機的な形で融資していくということなんですね。これは、預金ではない。自己資本でもない。そして、商業銀行でもない。だから、バーゼル規定からはずれてしまう。自由である。というのが「金融の自由化」(注10)という流れだったのであります。
つまり、規制のきつい商業銀行から規制のない投資銀行の方にシフトする。これがアメリカの金融であった。これが素晴らしい金融だということで、「日本も見習え」「日本の銀行は情けない」「護送船団方式(注11)でリスクを取らないんだ」と、さんざんわれわれは言われたんですよね。投資銀行というのはそういう銀行である。
それで、「レバレッジ」(注12)と申しまして、規制がないわけですから、本当に自己資金の30~40倍という借金をして大勝負をしていくんですね。巨大なお金です。ちゃんと申しますと、例えばアイスランドから逃げていくお金というのは、アイスランドのGDP(国内総生産)の10倍なんですね。それだけの巨大なお金を動かしているんだということ。そのお金で悪いことをしてきた。要するに、何十倍にも膨らませてきた。そういう銀行です。
そして、「何をしてきたのか」「どういう営業をしたのか」とかいうことは、当局に一切報告しなくてもいい。その代わり、いざひっくり返ったときには自己責任であって、「当局からの公的な援助はいりません」という約束で、自由に泳がせろというのが投資銀行だったんのであります。
それで、私たち日本の金融の常識の下では、投資銀行という概念はほとんどありませんでした。われわれは商業銀行と投資銀行が質的に違うんだということを教えられずに、ただアメリカの銀行は非常に積極果敢に攻めまくるんだ。日本の銀行は保守的でものすごく肝っ玉の小さい銀行だという、「アメリカばんざい、日本はだめだ」というように教えられてきたんですよね。
ところが、投資銀行がひっくり返った。「ひっくり返ったのは自己責任じゃないか」ということなんだけれども、実際にはひっくり返ったら公的資金を求める。「それでは初めと話が違うじゃないか」となると、「われわれは投資銀行をやめます」と言い出したんですね。「商業銀行に変わります。だからお金を融通して下さい」ということになって、歴史的に投資銀行、具体的にはゴールドマン・サックス、メリルリンチ、それから倒産したリーマンブラザーズ、それからモルガンスタンレーですね。こういうような投資銀行が軒並み倒産ないしは商業銀行にくら替えしたということであります。
象徴的な例は、モルガンスタンレーが商業銀行である日本の三菱東京UFJの援助を受けるようになった。ということで、分かりやすく言えば、「投資銀行よさようなら。商業銀行よ、もう一度こんにちは」という時代に今来たんだ、ということを分っておいて下さい。
しかし、問題をこれだけ複雑にしたのは、「修羅場(しゅらば)」なんです。サブプライムローンの解説の一番肝心なことは、ほとんどの人たちがしゃべっていないのですが、今のアメリカの金融の恐さというのは、「金融が安定していればいい」という共通認識がなかったんです。つまり、「倒産すれば儲かる」というけしからん連中たちが出てきたのであります。これが今もよく言われているCDS(注13)と言われているものであります。CDSとは何かと言いますと、クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap)。何のことかと申しますと、「この企業は倒産すると思いますか、倒産しないと思いますか」という賭けなんです。これがCDSです。
Aという企業がBという企業からお金を借りる。BはAからお金を返してもらう権利がある。しかし、Aが信用できない。もしかすると返してくれないかも知れない。そこへCという保険会社が出てきた。それで、Cが「もしAが倒産した場合には、Aに変わってBに全額支払ってあげますよ。そういう保証を差し上げます。その代わりこの保証を買って下さい」。そうすると、Bはいざというときに心配だからCという保険会社からその保証をお金を出して買うんですよね。ここまではよくある普通の保険です。
問題がややこしくなったのはここからです。アメリカは戦後70年間、不動産価格の下落がなかったんですね。だから、倒産はないであろうと考えたんです。よって、保証してもらったBがCからの保証を他人であるDに転売するんですよ。そうすると話ががらっと変わってくるんです。
A、B、Cの関係のときには、Bがいざというときのリスクのためにお金を払って保証してもらうんだということでした。ところが、CDSがDに転売されたら、DにとってはAが倒産しない限り、自分の持っているCDSが一文の価値もないんです。倒産したらその証券にはお金が払われる。そういう修羅場にアメリカは突っ込んだんです。
そうすると、黙ってことの成り行きに委(ゆだ)ねるという形でCDSを保有するDはおりませんよね。あらゆる手段を使ってAを倒産させるように踏み込んできますよね。マスコミ宣伝をするとか、あるいは色んなあら探しをやるとか、あるいは、ないとは思うけれども、格付け会社とか会計事務所を買収するとか。あらゆる形で「Aは倒産するぞ、Aは倒産するぞ」ということをやってしまうんですね。これがアメリカの修羅場だと分って下さい。
これで世界の連中たちは「アメリカのどこが正義の味方なんだ」「悪いことばっかりしているじゃないか」「信用できるか」ということで、アメリカを見捨てた。というのが真相なのであります。
だから、このCDSというのは「金融における大量破壊兵器」と言われているのであります。発行額は60兆ドルを超すであろうと言われております。名前を出して申し訳ないけれど、最大のCDSの売り手はAIGであります。ビジネスモデルという言葉を私は好きではないんですが、AIGはビジネスモデルを間違ったんでしょうね。
隣の人が自動車事故を起こしたからといって、私が連動して自動車事故を起こすことはない。だから、自動車保険の場合はある程度の計算式が成り立って、このくらいの保険料だったらとんとんでいくだろうな、という計算ができます。
ところが、隣の企業が倒産した。そのときに、取引していた自分の企業が連鎖倒産する。ということで、若干の倒産が全ての倒産につながるという不安感を持つのであります。それで、AIGは、とにかく「倒産はないであろう」ということで売りまくった。ところが、売った証券が債権者の手元に保全されておるならば問題は広がらなかった。全く、債権債務の関係のない、単なる金儲けの手段としてCDSを買った連中たちがそれを使おうとした。Aが倒産すると儲かる、ということなんです。そうなってしまうと、真っ先に倒産するのはAIGになります。AIGは世界の支払保証をしておりました。AIGが倒産したら大恐慌が絶対来るのであります。だから、アメリカは各金融機関を救済する前に、AIGの救済・国有化、株式の80%をアメリカ政府が保有するというのであります。ここが深刻なんです。
実際にCDSの値段はいくらなんだ、となってくると、倒産しなければ、清算しなければ支払額が確定しないのであります。ある程度の価値が残っていますからね。要するに、どれだけの被害があるのか誰も分かっていないということなんです。
つまり、これは「シャドーバンキングシステム」(注14)と申しまして、闇でうごめく銀行なんです。闇でうごめく銀行なので、表の数値は誰も知らない。当局に報告する義務もない。このことによって、問題がここまで大きくなっても当局はなすすべもなく、傍観するしかなかったのであります。もっと、早くから規制をかけておけばよかったんですけれども、ご存知のように、投資銀行の大親分はゴールドマン・サックスであります。金融自由化をやった1999年、金融近代化法案をつくった、要するに、証券と銀行と保険との三つの壁をなくした、これがロバート・ルービン(注15)という財務長官でありました。彼はゴールドマン・サックスの会長から転身した人間であります。そして、現在の財務長官・ポールソン。これもゴールドマン・サックス会長からの転身者でありました。「出来レース」と言ったら名誉毀損(めいよきそん)になってしまうんですが、そういう一つの権力構造がある。私はこれを「金融権力」と名付けているのであります。こういう金融権力構造がアメリカで定着していた。それで、世界の連中は「アメリカに追随しろ」というのでみんなアメリカに殺到していって、ひっくり返った。というのが現状なのであります。
今月8日、G20(注16)と申しまして、世界20ヶ国・地域の金融機関が集まります。それから11月15日、ワシントンでBRICs(注17)を始めとして、世界の主だった金融国がやはり20ヶ国集まります。この連中がアメリカをつるし上げることは必至であります。「もっと規制をしろ」「ファンドなんかの存在を許すな」と。
分りますか、ファンドがどんなものか。例えば、村上ファンド(注18)が世間を騒がせていたときに、誰がファンドの出資者であるか分からなかったでしょう。それで、実は日銀総裁(福井俊彦・当時の日銀総裁)が出資していて、「えー!」ということになって、みんな驚いたわけでしょう。世界を荒らしまわる、阪神電鉄を食い散らす、村上ファンド。阪神電鉄の方は全てデータが明らかにされなければならない。ところが、食い散らす側の村上ファンドは会員の名前一つ発表していなかった。こういう一方的なもの。これがアメリカの言う「透明性のある会計制度」だったんであります。
それで、全ての会計は時価会計にするということであった。倒産しそうなときに、自分の持っている資産がものすごく低いというこの時価会計のために、日本の企業は相次いで倒産したのであります。ところが今、アメリカは時価会計を凍結しています。自分のところが危なくなったら時価会計はやめる。そういった色んなことでアメリカに対する信頼が絶望的になくなったんですね。特に、フランス、それからアメリカ寄りであったイギリス、これがアメリカに対して厳しく対応するようになってきました。
そして、日本はどうか。麻生さんは11月15日にどう言うんでしょうね。「自由主義を守れ」ぐらいしか言えないんでしょうね。それで世界はみんなアメリカから逃げようとしているのに、日本だけが「アメリカばんざい」で尻尾を振っていくんでしょうね。これでまた日本の政権に対する信頼感がなくなるということだと思います。あそこで麻生さんが格好よくアメリカ批判をやってくれたら、ちょっとくらいは支持率が上がるんでしょうけれども、無理であろうと思います。
ちょっと話が長くなりました。投資銀行がなくなったんだということ。これは世界史的に見れば起こるべくして起こったので、今、金融恐慌で非常に苦しいけれども、この危機を乗り切ると少しはましな経済システムに戻る可能性が強い。というように私は思います。ただし、主導権はフランス・イギリス・ドイツが持つであろうということで、日本は置いてきぼりをくうであろう、ということは予測できます。以上です。

(増田)ありがとうございました。
先生にもう少し突っ込んだお話を聞きたいという方は、この『金融権力』(岩波新書)という今、非常に売れている先生の著書がありますので、是非読んでいただきたいと思います。KU会の会員のみなさにはすでに無料で送付していますので、会員になって下さいね、という話でしょうけれども(笑)。受付のところにもこの本を数冊置いていますので、読みたい人はお持ち帰りいただきたいと思います。

(本山)実は、この本の韓国語版が今日、韓国で発売されます。ちょっとうれしいですね。人の不幸を喜んではいけませんけれども、ちょっと反響を呼ぶんではないかなと思っております。

(増田)それで、今、先生の方から、アメリカ発の金融恐慌、金融危機の構造についてお話がありましたが、この経済的な危機と同時に、アメリカの政治的あるいは軍事的な危機、というのも実は進行しているのではないか。ということで、武委員長の方に、その辺の話をうかがいたいと思いますが、いかがでしょうか。

(武)はい。これは先生の方から後でお話があるかも知れませんが、今、おっしゃったように、どちらかと言うと、今の金融危機というのは一口で言えば、弱肉強食の市場原理(注19)と言うんでしょうかね。それは全て自由に競争させるということです。元々は、経済にしましても政治にしましても、民衆の暮らしを豊かにするためのシステムでなければいけないわけです。ところが、人間の暮らしの土台である経済というものが金儲けのためになり、一部の大金持ちが市場を食い荒らすことを自由にさせていた。そのツケが今きているんだ、ということが今のお話だったと思いますね。
ところが、資本主義体制そのものが、基本的には市場原理主義ですよね。いくらか規制はしながらも、基本的には競争社会ですよね。なぜかと言うと、競争によって、一部特権階級が「わが世の春」を謳歌できるのが資本主義のシステムですからね。これは経済のシステムもそうだし、政治のシステムもそうですよね。ですから、一応、アメリカみたいに政権が変わったとしても基本的に変わらないのは、資本主義そのものの仕組み、一部特権階級のための経済・社会・政治システム。これは基本的に変えないという点では、誰が大統領になったとしても不変だと思いますね。
ところが今の経済危機というのは、お話がありましたように、投機マネーというものの暴走。投機マネーの暴走ではあるんですが、本質的には今、私が申し上げたことにあるんじゃないかな、と思いますね。
経済が不安定になりますと、当然のことながら、土台である経済の上部構造は政治の世界ですから、政治が非常に混乱し、混迷を深めるというのが一つの法則だと思います。その流れが強く現れているのが、バクチ経済をし、ひたすら走り続けてきた、フリードマン(注20)という学者などが進めてきた、「市場に人間を合わせていく」という考え方。本来、人間が市場をコントロールしなければならないんですが、逆で、市場に人間を合わすということ。そういう市場原理主義を追及したのがフリードマンというシカゴ学派(注21)の学者ですよね。
こういう人の論理がどんどん取り入れられて、一番失敗した例というのは、軍事独裁政権をやっていたチリなどです。チリでは1970年代に軍事独裁政権で、言わば、民衆の権利なんか全く認めませんから、強引にフリードマンの主張する市場原理主義を取り入れたんですね。取り入れたんですが、一時期は成功したかのように見えて、「チリは非常に優等生だ」という風に日本の御用学者などからも紹介されてきたんですが、その内に、チリは大変危機に直面するんですね。要するに、貧乏人がどんどんできてしまって、一部特権階級だけが好き勝手なことをするというような、目に余るような状態になった。失業者もどんどん増えていった。中小・零細の人が本当に貧困にあえぐという、今の日本と似たような状態がチリに出てきました。そして、このフリードマンのシカゴ学派はチリから追い出されてしまったんですよ。
追い出されてしまって、アメリカ的なやり方はもうだめだ、新しいやり方を追及しなければならない、という風になって、独裁政権を打ち倒して、いわゆる左翼政権が誕生するようになりました。アメリカのすぐ近くでまともな政治が出てきたということです。
それで、チリだけじゃなくしてべネズエラなどもそうですよね。ベネズエラではチャベス(注22)という人が大統領になっているんですが、この方は元々軍人であって、軍人でありながら、アメリカみたいなやり方をして民衆を苦しめて、一部特権階級だけが謳歌するようなことではだめだと言って出てくるんですね。そして、投獄されたりもするんですが、しばらくして出てきて、今は大統領になっている。
そして大統領は軍隊を使って、各地に協同組合をつくっている。軍隊を使って協同組合をつくるというのは、あまり例がないことではないかと思うんですけれどね。そこでチャベス大統領はどういうことを言っているのかというと、いわゆる民権を徹底的に追及するということ。要するに、外国資本の資源略奪を認めない。それから、一部特権階級によって民衆を苦しめるような政治のあり方・経済のあり方、これを徹底的に改めていくということ。そういったことなどを中心にしております。
そして、中南米は、このチャベスなどが軸になって、アメリカに対抗するような新しい流れをつくろうといています。あの地域において、「南の銀行」(注23)と言われる銀行をつくって、国際通貨基金(注24)に対抗できる、つまり、アメリカ中心型の金融システムに対抗できるようなシステムというものが今、できつつあるということで、非常に注目されておりますよね。
この流れは、一昔前でしたら、アメリカは軍事力で潰すでしょうね。中南米と言えば、すぐアメリカの近くですからね。ところが、今、アメリカはそれを軍事力で潰すような余裕がなくなっているんではないでしょうか。
なぜかと言いますと、それは、1944年にアメリカのドルを基軸通貨(注25)として認めるということが決められたようですね。そのときには金1オンスにつき35ドルというレートを決めて、その代わり、金がアメリカに寄っていたものですから、世界においてドルを基軸通貨として使える、という仕組みができたようです。しかし、ほんのわずかな時間で、1971年にその体制はニクソン・ショック(注26)ということで崩壊しております。それ以来、アメリカのいわゆる市場原理主義というのは、事実上ずっと崩壊をたどってきたのではないかと思うんですね。崩壊をたどってきて、それが一種の爆発的にどうにもできないようになったというのが現状ではないか。
ですから当然、経済が激変しているということですから、アメリカの政治の流れも、制限はされながら大きく変わるということになってきている。
それで、ヨーロッパにおける運動というものも、年金充実を求めるストライキとか、あるいは賃上げのストライキとか、日本ではほとんど報道されませんが、「大企業中心の経済政策をやめよ」という声が非常に高まっていますよね。韓国でも、新しい大統領の下で、結局、アメリカの言いなりになって、安全かどうか分らない牛肉をどんどん輸入するということに対する怒りが爆発しておりますね。そういう形で、社会運動が大きく発展しているんですね。
残念ながら、わが国においては、そういった政治を変革するという運動が非常に弱い。確かにこの間は、トラックの協会が事実上ストライキに入ったり、それから、漁師の人たちが何十万人も結集して事実上ストライキしたりしている。また、農民たちが農業自由化について反対する。こういう運動はありますが、それが、大きな社会運動として展開するようなことになっておりません。
その原因は、やはり労働組合の体たらくが原因しているんじゃないかと思いますね。労働組合の中でも大企業の労働組合が今、主導権を握っているものですから、大企業の労働組合は大企業の利益のために、大企業の労務担当みたいなことをやるわけですよ、労働組合が。そして、中小企業をいじめ、下請の労働者をいじめ、派遣労働者をどんどんつくって、今の二極構造をつくっているわけですね。
ですから、まだ日本の場合は、社会運動が政治を変えるという流れが弱いと思います。ところが、弱いんですけれども、一方では、犠牲を受ける人たちというのは、そういう運動があろうがなかろうが体で感じるわけですね。体で感じるわけですから、先ごろの参議院選挙において、与野党逆転という現象が生まれてきております。そして、これから考えられるであろう総選挙についても、自公政権はアメリカの言いなりになっているし、大企業中心の政策である。そして、その結果、全てに犠牲を転嫁している。こういう流れはだめだということで、今、政権交代を求める世論というものが高まりつつあるんじゃないかと思いますね。
そういう意味では、他の国よりは目立っていないですが、やはり、犠牲を受ける人たちの怒りというものがたまってきている。政治の変化も可能な時代になったのではないか。つまり、相手側が無茶をすればするほど、それに対して団結して闘うという流れが強まってきているというのが今の時代状況ではないか、という風に私は認識しております。

(増田)ありがとうございました。
今、お二人のお話の中で、「アメリカ」というものが出てきましたよね。世界の政治的・経済的な中心点であり、そういった形で支配していこうという国ですね。この超大国アメリカに日本はべったりくっついて離れない。金融危機が発生しているにもかかわらず、このアメリカについていこうとしています。これは、翻(ひるがえ)って言えば、日本のアメリカへの従属性というものがずっと続いているということではないか。その構造を1回説明いただきたいと思います。
実は、この間、小泉さん(小泉純一郎・元首相)もそうなんですが、「年次改革要望書」(注27)というものが、クリントンと宮沢さん(宮沢喜一・元首相)の時代、90年代以降、出されてきました。これは「日本の社会をこういう風に変えなさい」というアメリカからの指導・指示です。それを日本が丸々受けて、金融自由化を進め、労働者の正社員化をなくし、社会保障制度を変えてきました。この中では「健康保険制度も変えろ」とまで言っています。日本政府はそれを唯々諾々(いいだくだく:少しも逆らわず他人の言いなりになるさま)と進めている、ということがあります。
この日本の「従属性」ということについて、「この10年20年に始まったことじゃないよ」と、本山先生はおっしゃっていますので、その辺の構造をうかがっていきたいと思います。本山先生、お願いします。

(本山)分りました。ちょっと、その前に貧困の問題を話させて下さい。
格差が拡大しているというのは常識でありますけれども、世界で一番貧困度数の高いのは、アメリカなんですね。貧困度数というのはつまり、真ん中から後ろにどれだけの人数が並ぶかということです。そこで日本はビリから3番目であります。先進国30ヶ国の中で。それほどにも貧困なんです。日本は金持ちではありません。
別の表現をします。マイケル・ムーアというすごい監督がいますよね。「シッコ SiCKO」という映画がありました。彼が自分のブログで発表してくれまして、「おおっ」と思ったんですけれども、アメリカというのは、トップ400人、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットが1番2番ですが、このトップ400人の資産はビリから数えて1億5千万人の資産より多いというのです。つまり、アメリカの半分の人数の合計よりも、たった400人が上回っている。
彼らがファンドを形成して、そのファンドには匿名性がある。となってきたときに、その400人のうち200人が動いただけで、国は潰れます。特定の小集団に莫大な富が集中している。これが今の資本主義の不安定性をもたらしている。ですから、金融工学(注28)は随分間違ってきたんですね。
何かと言ったら、所得は正規分布(注29)すると考えたんですね。あるいは、あらゆる確率はそうなるであろうと考えた。真ん中辺が一番度数が高くて、両脇は少ないだろう。こう思っていたんですが、これは全部間違いなんです。現在の経済現象というのは全て、「ロングテール」と申しまして、ビリの方にものすごくたくさんの人数がいて、ずっと永遠と続くしっぽがあって、そのトップの400人が全体の面積の半分を占めている。こういったとてつもない社会に今なっているんだ、ということを知っておいて下さい。そして、「この社会が素晴らしいんだ」「アメリカンドリームだ」という形で、小泉内閣はアメリカの手法をまねしようとしていたのであります。
ここで二つの問題点があります。一つは、アメリカの言いなりになったということ。何で言いなりにならないといけないのか。一人くらいはアメリカに「NO」を言える首相はいなかったのかとなるけれども、実はこれをできなくさせたのが日米安保条約であります。
安保条約というのは、軍事条約だとみなさん思っているでしょうけれども、第2章には「日米経済の一体化」があります。つまり、日本とアメリカの経済体質をすり合わせしますということですね。逆に言えば、アメリカが日本に近づいてくるはずはないので、「日本がアメリカになれ」というのが、1960年の日米安保条約の改訂版だったわけです。これに対して安保闘争(注30)があった。
それで、この筋書きを書き、日本側と交渉に当たったのが、クリスチャン・ハーター(注31)という男であります。このクリスチャン・ハーターが後々大きな問題になるアメリカ通商代表部(注32)の初代代表であります。USTR=アメリカ通商代表部とは何かと言ったら、大統領の直轄権限、直轄の組織、議会も選挙も全くなく、大統領がその人間を選んで、そこに全ての権限を与え、外交問題を集中的にさせるというものです。このUSTRの初代長官がクリスチャン・ハーター。日米安保条約を押し付けた男である。
それで、アメリカが年次改革要望書を出して、ああしろこうしろと言いますけれども、結局は一番大元のところの安保条約を廃棄しない限りアメリカのごり押しは合法的なんですね。これが日米安保条約の恐さなんであります。
次に二つ目。今、「大統領直轄」と申しましたが、これをやれと言ってきたのであります。そして、小泉内閣のときに初めてやったのは何かと言ったら、財政経済諮問委員会(注33)です。それまでは、各省庁が色んな案を持ってきて、そして国会で丁々発止(ちょうちょうはっし:激しく議論をたたかわせ合う様)の議論をやって、そして法案として煮詰まってきて、閣僚会議で「それでいこう」というゴーサインが出てくる。という形で、各省庁が諮問委員会を色々と持っていました。
しかし、小泉さんのときに、財政経済諮問委員会というものができまして、内閣の直轄になりました。これは竹中さん(竹中平蔵・元経済財政政策担当大臣)が主導して全ての案をつくりまして、これを各省庁に「お前はこれをやれ」という形で振り分けていった。そして、それに対して(各省庁が)「だめだ」と言ったら「抵抗勢力だ」ということで強引に押し切っていくということをやった。
この内閣府の直轄政治というのは、これをやったために、国家公務員いじめがあり、各省庁いじめがあり、労働組合いじめがあり、あらゆるところがそうなってきたんであります。つまり、首相に全ての権限を持っていく。選挙で選ばれた選良(代議士)が、のうのうと暮らす国家公務員たちを指導するんだという名の下に、民主主義でもなんでもない、小泉さんが選んだ特定の人がそれをやった。特定の人というのはちょっと名前を出せませんけれども、竹中さんは自分の部下に自分のお友だちばかりを入れた。そのお友だちが日本の経済をガタガタにしてしまった。
これは全て、アメリカの言いなりになってやったことです。そして、本気でそう考えたのかも知れませんけれども、アメリカ的な制度を日本に導入することが一番いいことなんだというように思った。それで、これだけの大暴風雨が吹いたときに、彼らはどういう発言をするのだろうかということを私は注目しているのであります。
ちなみに、昨日の東京新聞の夕刊に私は投稿しているんですが、原水爆開発にある程度関わったアインシュタイン(注34)は、自分のつくり出した原爆という巨大な怪物に恐れまして、原爆反対運動をしたということはご存知だろうと思います。では、金融でこれだけ問題を起こした連中たち、その主たる犯人は経済学者です。金融工学というものを駆使した経済学者であります。その中から、第2のアインシュタインが出るべきだと思います。だけど、このままいけば出ないでしょう。はっきり申します。よくテレビで解説しております連中たちは現在の不幸をつくり出した張本人です。その連中たちがしゃあしゃあと「今の経済危機はね~」「今の金融危機は・・・」となってくると、私は日本の将来に対して、ものすごく絶望的にならざるを得ません。
今、一番大事なことは、別にナショナリズム、右翼的でなくて、われわれはやはり、靴を脱いで、下駄を脱いで畳の上に上がるんであって、畳の上で靴を履かないんだということ。そのときに、当たり前のことなんですけれど、アメリカと日本は違うんだということですね。これだけゼロ金利(注35)が続いているのに日本人は株を買わずにとにかく預金をした。それで、ゼロ金利の下で(預金が)100兆円も増えた。悲しいほど、切ないほど「日本人」です。そして、株を買わなかった。株は60%が外国人によって買われていた。今、アメリカがお金がなくなって、換金するために日本の株を売りまくっている。日本の経済危機でもなんでもないんです。株主がアメリカ人であるということです。それに尽きるんであります。
こういう風に、アメリカと日本は文化的背景も人間的感情も違うんだという、当たり前のことから考えた経済学をつくるべきだったと思うんですね。ところが全てアメリカのスタンフォード大学帰りだけが偉そうにして、シカゴ学派が偉そうにしている。「イギリスに行ってきました」「ドイツに行ってきました」「フランスに行ってきました」という経済学者は全く評価されない。こういうとてつもない屈辱的な植民地的経済学をわれわれは大学で教えているわけであります。
私のような考え方を学生に押し付けたら、学生は公務員試験に通りません。「本当は教えたくないけれど、これは試験に出るから覚えておきなさい。ただし、僕はこう思うよ」と言うんですけれど、学生諸君は私の言ったことは全部忘れちゃって、試験になると、いわゆるネオクラシックな(新古典派)経済学(注36)の回答をします。「うぅ」と私はうなるわけですけれども。
話がそれました、ごめんなさい。少なくとも構造的に、日本はアメリカの言いなりにならざるを得ない状態に仕向けられてきた。ですから、「何が構造改革か」と言いたくなる。むしろ、特定の人間が政治・経済を支配できる非常に怖い社会体制に日本は踏み込もうとしてきたんだということを私は強調したいと思います。
そして、アメリカはそれがひっくり返った。だから、次は日本も同じようにその体制がひっくり返る可能性があるというように、私は信じております。

(増田)ありがとうございました。
今、先生がおっしゃった貧困の問題で、マイケル・ムーア監督はアメリカが公的資金注入の政策を発表したときに、下院議員とか上院議員に「こんな法案は通すな」とブログを使って発信したんですよね。その内容を資料に入れております。それを1回読んでもらいたいと思います。先生がおっしゃったように、一部の特権的な富裕層が資産を全部取りながら、困ったときには「助けてくれ」と言う。そういうことをしていることに対して、「NO」を言おうよ、とムーアさんがみんなに発信している。
それで、同時にアメリカでは労働組合も「金持ちの尻拭いをなぜわれわれがしなければならないのか」という形で、闘いに立ち上がっておられるというような報道も今、あります。

(本山)フリードマンとか、そういった新自由主義者たち、「国家よ、退場しろ」「国家は邪魔だ」「市場に委ねろ」と言っていた当の本人たちは黙ってしまって、あらゆる銀行、あるいは住宅金融公庫(注37)、あるいはAIG、全部例外なく国家によって救済されているんですよ。もし、国家がなくなっていたら大変なことになっていたんですよ。こういうことに対して彼らは弁明する義務があると思うんですよ。恐らく口をつぐんで黙ってしまうでしょけれどね。国家退場を雄々しく言った連中はどうなっているんだという、本当に私は心の底から怒りを感じます。

(増田)はい。それで今、アメリカと日本との関係をお聞きしましたけれど、この間、アメリカの戦争政策等を含めて、世界中の労働組合が「反対」と言っている中で、日本の労働組合は何もしないということが続いています。しかし、今日お見えの武委員長率いる連帯労組のみなさんは、ストライキをした。これは歴史的に、ベトナム戦争のときにもストライキをしたということをうかがっておりますけれども、そういう反戦平和を闘う労働組合として、アメリカと日本との関係についてどう思われるのか。あるいは、アメリカの基地の問題であるとか、沖縄戦歴史教科書の問題であるとか、幅の広い活動をされておりますので、是非、その辺の観点をうかがわせて下さい。

(武)はい。その前に、一つはですね、1989~90年にかけて、日本で言えば総評(日本労働組合総評議会)が解体されるし、それからいわゆるソビエト体制というのが崩壊して冷戦構造が終焉(しゅうえん)した。それで、冷戦構造が終焉したということは、「資本主義が勝ったんだ」「社会主義というのはどうしようもできない制度であった」と言われ、それ以降、マルクス経済学(注38)というのはほとんど大学でも興味を持たなくなったらしいですね。ところが、この混迷している状況の中では、またマルクス経済学を見直すという動きが出てきているようです。イギリスなどでは20世紀の偉大な人物の第一番目にマルクスを挙げているようですね。
ですから、多分先生、これからは今までのような、アダム・スミス(注39)とかリカード(注40)とか、フリードマンに至るまでの、近代経済学(注41)者というものの論理はもう破綻してしまって、結局は本当の意味でマルクス経済学というのが見直される時代になったんじゃないかと思いますが、後でまたそのことについて解説していただきたいと思います。
それから、いま一つは、これは物理学者とか天文学者などがよく懸念しているんですが、今、日本の高校生や大学生の間では、物理学を専攻する人が非常に減っているそうですよ。(学生数の)15%を切っているということを言われているんですね。それで、物理学というのは元々、合理性とか普遍性、法則性をしっかりと追求して、身に付けていくということ。だから、今すぐのお金がどうだとか、今いい会社入ったからどうだということではなくして、歴史を非常に科学的に分析してみたり、これから新たな科学を進歩させるために歴史を教訓化し、どんな論理の組み立てをするのか、ということを追及する学問のようです。そういう人たちが減っているということは、これからの日本社会にとって非常に憂うべきことであるということを、学者などが言っているんですね。
こういう風にしてしまったのも、結局は、アメリカ的な物とか金だけが全ての価値観であるという世の中の構造をつくってきた政治家、財界、こういうところの責任が大きいと思うんです。本来、そういうところをもう一度見直していく、そういう時代ではないかと思いますね。
それからもう一つは、先ほどの「年次改革要望書」の問題で、一番有名なのが郵政民営化(注42)ですね。郵政民営化というのは、巨大な預金をアメリカ資本にとって都合のいいように利用したいというのが本質であって、アメリカの要求によって日本において郵政民営化が実行された。その前で言えば、国鉄の分割・民営化(注43)という問題も同じですね。
結局は全て、なけなしの預金も全て食い散らしてしまおうという貪欲なアメリカ財界、そして、それにのっかかっている日本の財界の意思によって、アメリカの要望を忠実に実行しているということじゃないかと思うんです。
それから、もう一つは、この間テレビを見ていましたら、日本の終身雇用制度(注44)と年功序列型賃金(注45)、それから企業別労働組合(注46)。この三つが日本経済をしっかり強いものにした。そして、アメリカに次ぐ経済大国になった。この制度もアメリカによって潰されたというんですね。要望書にちゃんとそれを謳っているようです。つまり、アメリカが「お前たちはこういう風に改革しなさい」と言う。彼らは大企業・アメリカにとって都合のいいように改革しなさいと要求する。連中からすると国民なんかどうでもいいわけですからね。
それで、それはどういうことかと言うと、アメリカは不況になると、レイオフ(注47)ということで、企業に一時帰休制度が認められているわけですね。これはずっと長年の歴史の中で、そうなっているわけです。アメリカでは産業別的な賃金制度なんですが、日本みたいに1年経つといくらか賃金が上がっていくという年功序列型の賃金制度ではないわけですね。
だけど、先ほど言いましたように、会社に就職するとその会社が潰れるまでは、元々日本の場合は、終身雇用制度だったんですね。これが労働法制度の自由化などによって、ズタズタに破壊されてしまって、事実上、今はないわけですね。そして賃金制度についても、年功序列型より成果主義というか、お互いに競争させて、その成果の分け前を得るというシステムに変わってしまいましたよね。
日本が一番安定した仕組みだったのに、それを破壊しなければ今さらアメリカをそういう制度に変えることはできない。変えることができないから、アメリカからすると、日本の経済力とか産業力とか、そういうものを弱めていくためには、アメリカ流の方向に変えさせていこうとこうことで、年次報告の中にその要求があった。そして日本がそれを受け入れて、年功序列型賃金制度と終身雇用というシステムが破壊されたと言われているんですね。
つまり、日本の政治家どもがアメリカの言いなりになって全てが進んできている。それが他にもいっぱいあるようですが、先ほど先生からお話がありました時価評価方式、会計制度についても、昔は日本では連結決算をしておりませんでしたよね。これはアメリカの要求で「子会社も全部連結決算にしなさい」という風になった。悪いシステムをたくさん押し付けられて、それをまた受け入れているのが日本です。ですから、日本はアメリカの50いつくかの州の一つだと言われるほどひどい状態ですよね。
こういう従属性を変えていくために、われわれが気付いて、われわれの問題意識の中でそれを変えていくということが非常に大事ではないか。ですから、当然のことながら経済的な従属性だけではなく、政治・文化・軍事、あらゆる点で従属しておりますよね。
特に食文化などを見ますと、マクドナルドのハンバーガーとか、ああいうものは最たるもので、貧乏人の食べる象徴的なもののようですね。昔、われわれの若いころ、50年ほど前ですと、「おなかが出ている人は金持ちだ」と言われておりましたね。今はおなかが出ている人は貧乏人。貧乏人が体によくないと言われているものをたくさん食べて、いくらか安くつく。金持ちはちゃんと料理して、病気にならないようなことをしている。
これは結局、アメリカ的な食文化。つまり、食文化というものは、考え方も変えてしまいますからね。ですから、大店舗をどんどんつくって、商店街がシャッター通りになってしまう。そしてコミュニケーション能力がほとんど破壊されてしまって、その子どもたちがどうなっているとか会話ができなくなっている。大学生だって、若い子はコミュニケーション能力が非常に低下して、何かあると自分の中にこもってしまうそうですね。平均的にそういう人が多いらしいですよ。それで家でパソコンを打ったりする。やるせなくなったら秋葉原の事件みたいなことを起こす。元々は全部が群れてやるということだったのに、それをしなくなって、生き方そのものをアメリカ流に変えられてしまっているという残念な動きがあるんじゃないかと思います。
それからもう一つは、麻生(麻生太郎・首相)とか、麻生と争った小池百合子(元防衛大臣)とか、この連中の話を聞いておりますと、「日本は官僚国家だから、官僚システムを変える」ということをしきりに言われておりますよね。だけど、この政・財・官のトライアングルという構造は利権のためにでき上がっている構造でしょう。今の自公政権はこれを変えさせないでしょう。これはそのまま温存しますよ。ここを一応追及しなければ、国民の批判が強いから。年金問題とか、後期高齢者の問題とか、ろくでもないことをいっぱいやっているからね。だから、そこを突かなければ批判が強いから言っているだけの話です。
しかし、彼らが本当にやろうとしているのは、公務員を叩いて、公務員の賃金が高いということで、それ下げさせようとする。労働条件を下げさせるようなことをやる。そうすると、民間の労働者の賃金も下がってきますよね。労働条件が悪くなりますよね。そうしますと、内需拡大なんてできなくなるわけですよね。依然として、外需主導型の方向で、国民の暮らしによって経済をよくするのではなくして、暮らしは消費税のアップなどによって締め上げながら、経済を歪んだ形でやっていこうというのが今の動きですよ。
ですから、だまされてはいけないのは、政・財・官のトライアングル、これは今の政権であれば全く変えないでしょう、それが利権構造になっているわけですから。そういう意味では、私は民主党を中心とした野党政権にならなければ、利権構造は変化しないだろうと思います。しかし、民主党になったからといって、アメリカと一緒ですよ。完全には変化しません。ですが、利権構造を変え、本当の意味で高級官僚の特権をなくすとか、高級官僚のいわゆる就職斡旋の制限をつくるとか、そういうシステムをつくるには政権が変わらなければいけないのではないか、と私は思います。
それから、先ほど出ましたが、当然労働組合ですから、労働組合の本来の目的は労働者の経済的・社会的地位向上ですね。だけど、平和とか民主主義がなくして、労働組合の運動なんかあり得ないわけです。それを一番破壊するのは戦争なんですよね。
第1次世界大戦というのは、1914年から4年間、大方5年近く戦闘が続きましたね。戦争によって何百万人という人が初めて地球上で殺されたのが、この第1次世界大戦だと言われておりますよね。そして、第2次大戦のときは何千万人もの人々が殺されましたよね。結局、戦争のときに一番犠牲になるのは一般国民でしょう。特権階級は、色々後ろから、銭儲けのために利用はするんですが、前には出てきませんよね。
私は、都島(大阪拘置所)に入っているときにある本を読みましたら、確か、スウェーデンかノルウェーの将軍ではなかったかと思うんですが、「戦争をやめさせる方法がある」と書かれていました。これは19世紀に言っているんですね、この将軍が。どんなことを言っているのか。戦争を始めるときにはすぐに、日本で言えば天皇陛下とかその子どもとか、それから国会議員とか、高級官僚とか、それを10時間以内に戦地に派遣することである。そうすれば、連中は戦争をしなくなる。これが一番有効な方法だと言っている本を見ました。なるほどなと思いますよね。ですが、そういう風になかなか彼らはしたがりませんから、民衆のレベルで「戦争反対」の声を上げる。
要するに、基本的人権の侵害の最たるものが戦争である。その戦争を許さない運動をするというのは労働組合にとって非常に大事なことです。ですから、1965年に当時アメリカが北ベトナムに対する本格的な攻撃をやっているときに、われわれは2時間のストライキを職場でやりました。2時間のストライキをやったらそれを理由にして、私と3人が解雇されました。それはなぜかと言うと、アメリカが戦争しているのであって会社が戦争しかけているわけではない。「解決能力がないところにストライキをするということは何事か」と、いうことで解雇されたんですが、これは5年ほど闘って後に勝利しました。
わが組織ができたのが1965年ですから、もうその段階から、労働組合がやはり経済闘争だけじゃなくして、戦争・人権にしっかりとした考え方を持って対応するべきだということから、その後、アメリカがイラク戦争をしかけた03年のときにもストライキをやり、今年もストライキをやったんですよ。そして、今のところ、われわれの影響度がいくらか高まって、ストライキをやったからといって解雇されることはないし、処分されることはないんです。
本来ですと、これは労働組合だけではなくして、全ての中小企業も含めて、戦争の動きに対しては敏感に対応するということが大事じゃないかと思います。過去の戦争の歴史というのは、分りやすく言えば、ドイツでは民主主義国家でありながら、民主主義の名によって独裁政治を生み、大変悲惨な戦争をやりましたよね。わが国だって、戦後60有余年経っておりますが、憲法の定めによって軍隊が持てない、交戦権が否認されている、平和主義である。これがあるから60年以上戦争しなくてよかったわけですよね。ところがなし崩し的に今、憲法が拡大解釈されて、自衛隊を海外派兵しておりますよね。そして、今の政権は憲法も変えようとしているわけですよ。
このときにわれわれは歴史の教訓を学ばなければいけないと思うんですよ。ドイツではいきなりヒトラー(注48)が誕生したわけではないですよね。第1次世界大戦でドイツは敗北して、賠償金を払わなければならないということがあって、巷に失業者があふれ出して、そして、何かしら将来に対する不安が非常に強いという世論の雰囲気の中で、ナチス・ヒトラーが誕生して、ああいう形であっと言う間に政権を彼らは握ったわけですよね。そして、ポーランドを侵略するときなどには国民の90%近くがそれに賛同したわけですよね。あれだけ民主主義国家と言われていた国が。そして、ヒトラーを誕生させたのも、国民なんですよ。
ですから、今の時代は先生の先ほどのお話にありましたように、混迷し、非常に厳しい経済状況というものがあります。中小企業にとっては貸し渋りとか貸しはがしなどですね。倒産が続出し、大量失業者が出る時代だと思うんですね。そうなりますと、「ドイツは特殊な国だ」という風に受け止めてはいけないと思うんですよ。日本も同じようなことになりかねない。そういうことをわれわれがしっかり受け止めて、アメリカの行う先制攻撃とか、日本がそれに追随していることに対して、労働組合もしっかり闘う必要がありますが、やはり経営の側もしっかりと、それについては世論に訴えていくことが、自らの経営を守ることであるし、人権を守ることであるし、子どもたちと孫たちに対して誇れる社会を継承していくことにつながるんじゃないかと思います。

(増田)ありがとうございました。
さて、この間、色んな本とかテレビなんかでも「危機だ」「今、金融は大変だ」という話で、今の資本主義に対する危機は指摘されるんですけれども、じゃあこれからどうするのだ、経営者のみなさんはこれからどうしたらよいのか、というようなことも含めまして、現在の危機に対する対抗、あるいはオルタナティブとも言いますが、代替をどうすればよいのか、というお話に入っていただきたいと思います。
例えば、今、国家が企業を運営しますよ。あるいは私企業が事業運営しますよ。そういう二つのセクターがありまして、一つは、社会主義国家が経済運営をする。あるいは、社会民主主義という国家では地方公共団体を含めてそういう公共的な事業運営をしています。日本とかアメリカは私企業ですね、これが一番素晴らしいのだということで全面に広がっております。
しかし、もう一つ、第3セクターということで、協同組合(注49)やNPO(注50)(非営利団体)があります。非営利団体なんかが運営している経済規模というのは実は非常に大きいのですが、日本は情報鎖国ですので、なかなか分からないですね。ヨーロッパを中心として、発展途上国もそうなんですけれども、協同組合の力が非常に大きいですね。そういう意味では、こういった日本で支配的な事業形態ではない新たな第3セクターによる事業規模というのが、非常に大きいということです。
国際協同組合同盟=ICA(注51)というものがあります。1895年にできました。これは協同組合の団体なんですが、全部で94カ国の協同組合が加盟しています。世界で協同組合に関与している人は7億数千万人です。そういう意味では、GDPも含めまして非常に大きな影響力を持っています。
そういう流れの中で、この金融危機に対して、あるいは資本主義の危機と言われていることに対して、本山先生の方はこの本(『金融権力』)で、色んな紹介をされています。例えば、グラミン銀行(注52)であるとか、あるいはNPO銀行(注53)であるとか、あるいはプルードン(注54)さんという19世紀の思想家がおられますけれども、そういう方のご紹介などですね。あるいは、先ほど武委員長がおっしゃっていましたラテンアメリカの「南の銀行」ですね。それから、イスラム金融(注55)の考え方とか、そういうことを縷々(るる)述べられております。これは「そういうやり方があるのか」という実例ですね。
その中で、ESOP(イーソップ)という従業員株主制度というものがあります。「これは一つの社会革命だ」と先生はおっしゃっていて、この研究では日本で他の追随(ういずい)を許さないというか、実際に行政ともお話をされているという実績も持たれています。そういったことで、この代替案について本山先生の方からよろしくお願いいたします。

(本山)はい。ちょっとはすに構えさせて下さい。すぐ答えますけれども。
1917年にロシア革命(注56)が起こりますよね。そのときに、日本の権力者たちは社会主義が何か分らなくて、「ロシア革命って何だ?」ということになった。そして、1918年に米騒動(注57)が起こりますよね。全国規模に広がります。これであわてて1919年に東京大学と京都大学に経済学部がつくられたんです。つまり、社会主義に恐れおののいて、「社会主義とは何ぞや?」「勉強しろ!」となったんです。特に京都大学は「社会主義をやれ(研究しろ)」と言われて、そこから河上肇(注58)が出てきたんです。国家が「社会主義をやれ」と言って始まって、200年ほどまだその伝統は続いているんであります。右に行ったり左に行ったりしますけれども。
そこで、ちょっと言いたいのは、河上肇が大正12(1923)年に「社会主義とは何ぞや」ということを書きまして、彼は「家族だ」と言った。つまり、家庭の中では差別がないでしょう。それぞれその子の、母親の、夫の幸せのために乏しい富の分配をやっているわけですよね、家庭というものは。これが社会主義だというんです。
そして企業もそうだと言うんです。企業も、企業の中での労働の配分とか、あるいは原料の節約とか、色んなものが格差社会じゃないんだと。企業の中でみんなで仲良く合理的編成していくもので、資本主義は企業内部に社会主義を生み出しているんだ。これを全体にもっていく。つまり、企業同士あるいは住民同士、そういったもので一つの家族的なものがつくれないだろうかということです。大正12年なんですよね。京都大学経済学部ができてわずか6年後です。6年後にもう、そういう「日本的社会主義観」というものを河上肇は打ち出してきているんです。やっぱりすごいと思います。
何を申したいのかと言いますと、労働運動がそういう必要な経済学というのをつくっていくんだ、ということを私たちは忘れてはいけないと思うんです。今、シカゴ学派の新古典派の連中が、それこそ武委員長がおっしゃったように「人の首を切るのがむしろ企業にとっていいんだ」と言うのは、はっきり申し上げまして労働組合運動が沈滞しているからなんですよ。なめられてしまっているわけです。
だけど、少なくとも賃金は低ければいいというものじゃない。二つの理由から。一つは、マイケル・ポランニー(注59)という方がいるんですけれども、カール・ポランニー(注60)の弟さんです。マイケル・ポランニーという方が、「暗黙知」と申しまして、本で伝えることもできない、言葉で伝えることもできない、とにかく人の背中を見て、技術は伝わっていくんだ。そういう意味では集団というものが企業の中にあって初めて技術というものは伝承されていく。これを暗黙の知=暗黙知と言うんでありますけれども、こういうものを企業の中でつくっていかなければいけないということ。これが河上肇の言う社会主義なんですよね。
それから、もう一つは、W・A・ルイス(注61)という方の話をさせてもらいます。W・A・ルイスというのはノーベル賞をもらった人なんですが、彼は「経済成長の結果、賃金が上がるんじゃない、逆だ」と、言うんです。賃金の高いところが経済成長し、賃金の低いところは経済成長が停滞するんだ。理由は、人権に目覚めて、ブルジョア革命・市民革命(注62)を経験して、「人間とはこうなければならないんだ」という自己主張の強い、怖い労働者を集めた企業というのは、高い賃金を出さなければならないし、社会福祉・福利厚生をきちんとしなければならない。そういう高負担に耐えるためには、安物をつくってはいけない。非常に付加価値の高いものをつくっていく。付加価値の高いものをつくっていくからこそ、相次ぐ技術革新が出てくるんだ。これが結果的には経済成長を促すんだということです。これでノーベル賞をもらったんですから、あれを見た瞬間に「私も」と思いましたよ。
本当にそう思います。私は経済成長の結果賃金が上がるんじゃないと思います。賃金というのは少なくとも習慣的なものであって、社会の制度の問題であって、それを前提として企業活動はあるべきだと私は思います。現実に賃金の低いとことでは、短期ではいいんです。しかし、10年20年30年となると、そういう企業は続きません。これは現実に言えます。
こういったことを考えて、今、われわれは何をなすべきか。というときに、もちろん、武委員長がおっしゃったように、労働組合運動をとにかく復活させなければならない。これは大前提でありますけれど、その上で、これだけの暴虐の資本というか、荒れ狂う資本、これは原始資本主義(注63)ですよね。重商主義(注64)時代に現代は戻っていますよ。こういう社会に歯止めをかけるためには何かと言ったら、まず金融を取り締まろうじゃないかということなんです。
それで、実は戦後直後の体制は「管理通貨体制」(注65)という言葉で表されたんです。お金は取り締まる。その代わり、物は自由につくってもらう。これが戦後直後の世界のブレトン・ウッズ機構(注66)でありました。そして、イギリスのブラウン首相は「第2のブレトン・ウッズ機構をつくろう」と言った。その心は金融を取り締まろう。もう一度、取り締まろう。こういうことで、現在世界的な課題になっています。
ですから、お金というのはわれわれの雇用を増やすために使うんであって、400人の大金持ちをさらに大金持ちにするためにお金が使われるべきじゃないんです。少なくとも私たちの雇用を増やしていくためにお金を使うとすれば何か、というときに、そのお金はローカルな、地域的にお金を循環させていくシステムをつくろうじゃないか。
そのためには、われわれが縁もゆかりもない大きな銀行にお金を預けるんじゃなくて、「いざというときには融資してよ」「設備投資のときに貸してね」とか、そういった一種の労働金庫(注67)的なものですね。そういったものを地域につくっていって、そこでみんなのお金をプールしていくというシステムが、絶対これから追及されます。ヨーロッパは真剣にそれをやっていくだろうと思います。わが日本もそれをやっていくべきだと思います。
そのためには、「株が上がった下がった」「儲かった損した」、こんな社会をやめましょうよ。「株」というものは、その事業に参加する会員証のことなんだ。Aという会社の株を持つということは、Aという会社の色んな生産活動、消費活動、世間的な活動、それ全てに自分たちは惚れて、その株を持たせていただきます。だから、絶対に売ってはいけない。とにかく安定株主として存在し、さらに、株主たちは会社に物申す。少なくとも、その受け皿は労働組合がやり、労働組合が株式を集め、そして企業側は賃金以外に現物の株を労働組合に渡す。そこでじっと持っていて安定株主になってくれということ。
こうしますと、M&A(企業の合併・買収)という、ある日突然来たら会社が変わっていたという悲劇を避けることができます。こういう意味で、広い意味での社員ですね。関係者に株を持ってもらいましょう。そして、その大株主組織が、同時に労働組合として経営参加をさせてもらう。だから、色んな従業員配置とか、生産のやり方とか、そういったものは組合と相談しながらやっていく。その代わり、浮気はしません。株はきちんと持っておきますということ。企業にとっては安定株主だと。こういう社会を早くつくろうではないかと、私は思います。
これを私はESOPと名付けているんです。Eというのは従業員(employee)です。Sは株式(stock)。Oは所有(ownership)。Pは制度(plan)のことです。これをつくろうじゃないか。
日本の従業員株主会とどう違うのかと言ったら、日本の従業員株主会というのは、ボランタリーな形で集まっただけで、ただ企業の株を持っておくというだけで、発言力がない。だから、発言力を持たす。それから、地域の金融機関が自社株を買えるようなお金を融資していく。そしてこの株は定年までじっと持つ。そして、配当金は全部積み立てていく。そのことによって、退職したときの年金のフォローをしていく。
そういう形で一つの企業におけるESOP制度をつくれば、やはり終身雇用制度が一番いいですよ。次々に会社を辞めなければならない。変わったらまたゼロから出発する、というのは嫌なんですね。羽ばたきたいという人は行ってくれたらいいんだけれど、私なんかはやはり、長いこと京都大学におりまして、あちこちから賃金が倍になるということで誘われたこともありましたけれど、「いや、やっぱりこの大学がいい」ということで、ずっと定年までおらせてもらいました。やっぱり長い付き合いをしていくということはいいですよ。
ちなみに、わが日本は、100年以上続く会社が10万社を超えるんです。世界でこんなことはございません。世界では、せいぜい一つ二つぐらいであります。アメリカなんかほぼゼロに近いんじゃないかな。とにかく、会社が長期存続していくということは大変なことなんですよ。従業員を大事にしなければ絶対にだめです。
それで、こういう風にお金をみんなでプールして、そしてそこで安定株主になろうじゃないかということですね。株式というのは参加証なんであって、それを売買することによって資産をつくるなんてことはもってのほかである。こういう社会をつくることによって、少なくとも労使一体型ができる。
私は何だかんだ言っても労使一体でなければいけないと思っているんです。少なくとも、経営者は労働者に対して、安心感を持たせる。そして、労働者は経営者に対して、ものは言うけれども真剣にとにかく協力する。あらゆることに協力する。ということで初めて経済・社会というものは成り立つと思っています。格好よく「総資本対総労働」と言いますけれど、歴史的に全て破産してきたわけですからね。結局、やわな形かもしれませんけれど、労使の話し合いという場をつくっていく制度、これが私はESOPだと思います。
実は、三洋電機が採用してくれたんです。ところがご存知の通り、ああいう状態になって、ご破算になりました。今度松下と合併するのかも分りませんけれども、ESOPの将来はどうなるんだろうか。実はパナホーム社で講演してきまして、その話を言って「がんばろうや」とやってきたんですけれど、この制度を真剣にわれわれは考えるべきじゃないか。
特に中小企業の場合はやらなければいけない。中小企業の悲劇ははっきり申しまして、年齢ですよ、後継者の問題ですよ。創業者は随分年齢がいってしまっている。「この会社をどうするのか」というときに、頼むから売らないでくれ。従業員に渡してくれということ。従業員がその会社にいることによって、自分の生きてきた誇りというものがある。とにかく技術を磨いてきた。これが大事なんであります。
アメリカ社会の情けなさというのは、熟練工を無視するということなのであります。新しければ新しいほどいいのであって、古くからいる社員とか熟練工というものを全部なくしてしまって、そういう連中のそういった作業は中国やインドやベトナムに任せたらいいということになって、熟練工が育つシステムではなくなっている。しかも、大学に入ったら、ハーバード大学なんて授業料580万円ですよ、今。そんなもの無理ですよ。私は自分の子どもでも行かせませんよ。そうすると、どういう連中が行くのかというと、お分かりのように、現在の麻生政権のお坊っちゃん内閣と同じものができていくんであります。2世とお金持ちが支配する社会というのはろくな社会じゃございません。
大体、大統領候補の奥さんを見て下さい、みんな大金持ちですよ。例外なく。こんな連中たちが政治的指導者になるというのはやはり民主主義でもなんでもない。そうなってくると、全ての元凶というのは何かと言うと、株を売買することにある。となってきたら、その株を社会発展のために使っていく。そして、老齢のために引退を考えて、自社を売ってしまおうと考えている中小企業のオーナーたちが、そのESOP制度を利用することによって、株式は労働組合に買ってもらって、ご自身は引退いただく。ということになっていくんじゃないだろうか。こういう制度が私は日本でも緊急にいると思います。
日本の96%は中小企業であります。日本の大企業が偉そうにできるのは、全部中小企業の持つ技術力です。これを勝手に安く使っていくから中小企業は悲惨なんであって、中小企業が独立するためには、増田さんがおっしゃったように、協同組合的なものをつくっていく。こういう流れを新しい社会運動として、われわれは展開すべきだというように思っています。

(増田)ありがとうございました。
引き続きまして、武委員長の方にもお話をうかがうんですが、今日、連帯労組さんが出しています「明日私たちはどこに行くのでしょうか」というパンフレットを資料に入れてあります。労働組合の方から経営者に向けて、「パートナーシップを形成しましょう」「一緒にやっていきましょう」というご提案のパンフレットだと思います。もう読まれた方もいらっしゃるかも知れませんが、関西地区生コン支部というのはこういう形で、中小零細企業のみなさんとパートナーシップを形成して、そして、大企業に抗して、中小企業が生きられる道、そして労働者が生きられる道を探っていこうとしておられます。そういうことで、単に批判する、単に何かを獲得するだけではない労働組合として長い歴史を持たれていると思います。
この間、非常に、建設投資も生コン・セメント需要も落ち込んでいます。こういう状況だからこそ、こういった新たなご提案が必要なのかなということで、武委員長、最後にその辺りのお話をよろしくお願いいたします。

(武)はい。まず一つ、さっき先生のお話にありました、「賃金が高いところが経済成長する」ということですが、われわれの業界に引き戻してみたら非常に分りやすいと思いますね。つまり、それはその通りだと思うのは、例えば生コンの値段ですね。これは一番低いのは大分です。今4,300円だそうです。1立法メートルの標準価格ですよ。今まで、3,600円とか3,800円で売っていた。こんなもの原価なんかあるのか。
それから、名古屋。名古屋は20数年間、協同組合が非常に安定していたんですが、アウトができたことに対して、アウト対策と称して生コンの値段をどんどん下げていったわけですね。それで、協同組合自身が金を持っていたものですから、その補填分を全部協同組合が負担していた。アウトの値段が3,000円引きであれば、4,000円引きで行きなさい。その4,000円引きの分は協同組合が負担するということで、どんどん価格競争をした。そしてどうなったのか。依然として混乱は続いております。今、6,800円とか6,700円ですよ。どのくらい出荷があるのかと言うと、月で1万立法メートルくらい工場から出ているんですよ。
東京はどうですか。3万立法メートル出ることもあるそうですよ。これは不動産バブルが事実上東京ではじけますから、そんなに出なくなるかも知れませんが、今は出ている。売り値段はとんでもないくらい下がっている。
問題はそこでどういうことになっているのかと言うと、例えば、名古屋の労働者、東京の労働者、その労働者の賃金の主要な部分は運賃ですよね。運賃は1立法メートル当たり1,500~1,700円。ですから、労働者の賃金もそれから見たらどの程度か分りますよね。しかも、東京の場合は、日々雇用が圧倒的に多いんです。80%くらいが日々雇用、いわゆる非正規労働者ですね。いつでも使い捨てができる。こういう労働条件下において売り価格がそういう状態にある。
つまり、売り価格が低くて、技術開発なんて全くしませんからね。そうすると、中小の経営者も貧乏しているし、労働者も貧乏しているし、出入り業者も含めて全部が貧乏している。そこで一番数量を出して儲かるのはセメントメーカー、大資本である。これはアウトであろうがインであろうが、銭儲けのためにセメントを売っているだけの連中で、他はみんな被害を被っているわけです。
では、関西の場合はどうなっているのか。これは労働組合とみなさんの努力と両方でしょうけれども、特に労働組合の努力だと思うんですが、賃金は今言った地域と比較して結構高いですね。労働条件にしても、125日の休日があるわけですから、企業内においても産別的な福祉が高いですよね。そういう高いレベルにして、売り価格も安定しているわけですね。そして、まず、ゼネコンとかセメントメーカーといった大企業との取引を対等にするような仕組みができ上がっておりますよね。そして、これから新しく技術開発をしよう、そして、品質保証システムをしっかりして、消費者が信頼できるような製品を提供しよう。そして、需要創出につながるようなことをやろうとしておりますね。
つまり、いくらか条件と賃金は高いんだけれど、そういう方向に経営者も問題意識を持って前にいく。つまり、しっかりとした理念と経営学の法則性というものを認識するようにならざるを得ないんですよ、労働組合がしっかりしますと。そうすると、労働条件と賃金は高いように見えるんですが、お互いが競争して、タコが自分の足を食って生活するようなやり方じゃなくして、もっと大企業の支配システムに対して、まとまって対抗しようという方向でいっているところに、先ほどのお話に通じるところがあるんじゃないかと思いますね。
それから、この状況の動きというものを見たときに、大体資本主義経済というのは循環しますよね。好景気が続きますと、在庫がどんどん増えたり、設備投資がどんどん増えたりして、これが限界に来たら、今度はまた不景気になりますよね。不景気になってまた、在庫が消化されていって設備投資が縮小されていくと、また景気がよくなっていく。これは循環するわけですね。資本主義の経済の法則というのは。
それで、今起きている事態というのは、そういう循環型の経済危機ではなくして、資本主義の仕組みそのものと政策の機能不全というのでしょうかね。先進諸国が寄ってきても、さっき先生がおっしゃったような投機筋を規制するようなことはよくできないですよね。そうすると、政策的にも行き詰っているし、資本主義の仕組みそのものが崩壊状態にきているという特徴を持っている。
実は、慶応大学の金子勝先生の出した本を見ますと、先生の分析では、20年周期を見たら非常にそれがはっきりしているということです。1988年、ブラックマンデー(注68)ということで混乱が発生した。そのときに日本では不動産バブル崩壊(注69)が2年後の1990に起きた。2年のタイムラグがある。その次に起きたのが、1997年から98年にかけてタイのバーツを中心にしてアジア通貨危機(注70)が起こった。それが発生して、3年後にITバブル(注71)が崩壊した。
その過去20年の2回というのは、そういう風にバブルの崩壊と実体経済の崩壊は時間差があった。今回の場合は、同時に来ている。だから、株がだめになる、証券不安が起きる。そして、信用収縮が発生する。そして、実体経済がどんどんだめになる。先ほどおっしゃったアイスランドとかハンガリーなどは国際通貨基金が支援しなければ、国まるごと潰れてしまうんじゃないかという状態になっていますね。こういうような状態で、もう言わばあたふたしているわけですね。
それで、最初、日本の支配者どもは、特に、今の中川金融財政担当大臣とか、与謝野さん(与謝野馨・経済財政政策担当大臣)などは「あんなものはハチに刺された程度である」と、こんなことを言っていたけれど、最近、麻生も「100年に1度の危機だ」と言っていますよね。長らくアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)を支配してきたグリーンスパンという方も、この間、議会で反省していますよね。「規制をしなかったのは反省する」「これは1世紀に1度しかない危機だ」という風に言っておりますね。財界の代表者も似たようなものです。ですから、今の事態というのは、中途半端じゃない。相当深刻な危機が出てきているという認識を持つ必要があるんじゃないかと思います。
ところが、歴史というのは、その真っ只中にいる人たちはそれほど深刻かどうか分らないんですよ。しばらく経ってくると、「あぁ、あのとき大きな曲がり角に来ていたんだな」「あのとき大変な事態だったんだな」となる。だけど、われわれは起きている現象からその物事を予測する力、物事の本質を見抜く力を身に付ける。それが人生の喜びでもあるし、また、経営したり、労働運動している人たちの誇りでもありますよね。いくらか先を見るということ。現象から本質を見る力ですね。そのためのこういう学習会だと思うんです。
そういう状況の中で、実は、われわれが今進めようとしているのは何か。この時代に対抗する思想というか理念というのは、競争ではだめだということですね。競争と相対する考え方とは何かというと「共生・協同」なんですよ。お互いに助け合うということです。長い人類の歴史の中で、助け合う歴史の方が長いんです。人類が発生して500万年と言われております。今のいわゆる近代的な人間が生まれたのが1万年くらい前だと言われておりますよね。この1万年の歴史の中で、お互いが助け合って生きた歴史はどれだけ長いか。何千年という歴史でしょう。
1万年の中ですごい歴史ですよ。日本で言えば、多分、弥生時代に行くまで。縄文時代の後期くらいからでしょう、競争したり、支配層ができたのは。それまでは、全部助け合って生きてきた。原始共同体社会ですよね。そして、やがては階級分化が始まっていって、そして、奴隷制社会とか、封建制社会とか、そういう社会が続いてきて、資本主義社会になった。アメリカが天下を取ったのは65年前ですよ。
さっき先生のお話がありました、ブレトン・ウッズ体制。これは1944年。アメリカのニューハンプシャー州に44ヶ国が寄って、アメリカを中心にしたシステムをつくろうと決めた。要するに、イギリスのポンドがだめになりました。そしてアメリカ帝国が中心になった。これは65年前ですよ。それが、今、崩壊の状態に進んでいるということでしょう。人類の長い歴史の中から見るとこういった危機というものは、しかし、人類にとってチャンスじゃないですか。
貧乏人でも家庭の中で笑いがある。貧乏人でもお互い助け合っていく。隣の人たちの生き方にも関心を持って、何か手助けできないかと考える。昔で言えば、長屋に住んで、秋になるとさんまを焼いて分け合っていくような、そういう社会がいいのか。お金があっても夫婦が絶えずけんかをして家には笑いがない。外に出たらいつ殺されるか分らない。鍵も二重にしなければとてもじゃないが不安である。つまり、共同体社会が破壊されているわけでしょう。こういう社会というのは元々おかしいんですよ。
こういう社会を見直すようになったというのはチャンスですよ。人間らしい生き方をわれわれは求めているということじゃないですか。そうすると、その人間らしい生き方を追及する、もっと言えば人道主義の精神に立って、われわれが運動するというのは「共生・協同」ですよね。それはどういうことかと言うと、今われわれが追及しているところの、生コン・生コン輸送・バラセメント輸送・圧送始めとする協同組合運動ですよ。
協同組合運動というのは、われわれは特に30数年前から追及し、今、実りつつあるんですが、何もわれわれがこれを初めに考えてやったんではなくして、イギリスのお金持ちであるロバート・オウエン(注72)という人などが、あまりにも産業革命によってひどい状態に置かれているのを目の当たりにして始めたんですね。「共生・協同」の形、つまり、人間というのは環境に支配される動物である。その環境を改善すれば、必ず人間の潜在能力を引き出すことになる。そういうことで助け合っていく。それには学習ですね。教育することによって人間は変わるんだ。ということで、実際に、今の「共生・協同」という協同組合思想を打ち立てて実践したのがロバート・オウエンだと言われておりますよね。そういう思想をわれわれは生コンで活かそうということなんです。
つまり、中小企業のために、人類のために、日本の経済をまともにするために、この協同組合活動は必要ですね。そこで、実は、今年の4月4日に阪神地区生コン会というものを設立しまして、現在では結集した会社が50社を超えているんです。今までなかなか入らないだろうと言われていた会社もほとんど入っているんです。それは従来ある協同組合とは違うグループなんですね。
そして、なぜこういう形で入ってきているのかというと、それは、一口で言えば時代状況を反映しているんです。もっと具体的な中身を言うと、中小企業の中でも、建設資材関係・不動産関係・運輸関係の倒産が一番ひどいですよね。一番、今の弱肉強食の市場原理の中で犠牲を受けているのは弱い一部のところですよね。不渡りをどんどん受ける。値段だけは天秤にかけられてどんどん下げられる。こんなことをやっていたら、(協同組合の)アウト・インを問わずもたなくなるわけですよね。そういう時代背景。
もう一つは、生コン産労(連合・交通労連関西地方総支部生コン産業労働組合)とか全港湾(全日本港湾労働組合関西地方大阪支部)とかわれわれ労働組合が、労働組合をつくる手段に利用するのではなくして、中小企業にふさわしい形の協同組合をつくろうと。そして、「共生・協同」をキーワードにしたグループをつくろうという労働組合の全面的な協力。こういう動きの中で、新しいグループをつくったんですね。
それで、先月27日に登記をして、阪神地区生コン協同組合(阪神協)に変わりました。この協同組合は、今、最低限度しなければならないことを求めています。一つは、自由に営業してもいい。ただし、自由に営業するということだけをやれば値段を下げたり、大企業に対する過剰サービスが当たり前になってしまいますよね。自由に営業するだけではだめです。それと、調整する機能を持つ。そして、自主規制する。この三つをバランスよく確立しようとしております。この三つのバランスのどちらかが崩れたら、阪神協は協同組合でなくなってしまう。
協同組合でなくなるということは、個社の競争のそのまま延長になってしまうわけですから、これは未来がない。この三つ、もう一度言いますが、自主営業を許します。ですから、シェア運営ではないんです。しかし、調整能力を持つ。自主規制を持つ。この三つをバランスよく追及していけば、モデル的な協同組合に発展します。
そして、もう一つ、販売店の手数料は6%です。それプラス、与信管理のために、1立法メートル300円を積立てていきます。これは協同組合がバックアップして各販売店の口座に300円ずつ積立てていきましょうということです。そして、もし不幸にして不渡りをかまされた場合は、その300円の与信管理を使って協同組合が被害のないようにしましょう。不渡りがなければそれは販売店に最終的に行くお金です。
なぜこれをつくるのか。ゼネコンから生コンの売り価格を崩される原因は販売手数料を下げるからなんです。今の協同組合が体たらくしているのはそれが原因です。6%というのは、物件によっては1,000円/立法メートルくらいのマージンです。この1000円のマージンを、「いや100円でもいいから」と言って、つまり販売店同士が競争するものですからね。販売手数料を下げて取りにいくわけですね。そうすると、1000円のところを900円引きでいくということになるわけでしょう。事実上、ここで値段が下がっているわけですよ。だから、阪神協は、販売手数料は一切下げてはいけない。1銭も下げてはいけない。その代わり、今までの協同組合よりはいくらか値を下げていい。
これがみそなんですけれどね。あんまり下げて阪神協だけが太ってはいけませんけれども、いくらか、そういう販売手数料は1銭も下げない代わりに、既存の協同組合よりいくらか値段は下げていい。そういうことを求めている。
三つ目、セメントメーカー、これは巨大な資本ですよね。今、セメントメーカーが分社化して、中小企業の顔をして協同組合に潜り込んで来て、それで協同組合を支配しようとしているわけですね。例えば、非常に分かりやすい例を挙げますと、千島に矢部生コンという工場があります。同じ地域に関西宇部という工場があります。シェアは一緒なんです。協同組合はシェア配分ですからね。シェアは一緒ですが、1ヶ月で多いときに(売上が)1億円、関西宇部が多い。少なくとも関西宇部が6,000万円多い。
なぜそうなるのか。それは高品度のコンクリートを納入できる仕組みを直系が取っているわけです。要するに、大臣認定とか、共同認定。共同認定というのはゼネコンとその工場が認定するわけですね。そういう認定を取ると、高品度のコンクリートの納入ができるわけです。そうすると、そこが1立法メートル23,000円のコンクリートを納入することになる。ところが、同じシェアでも12,000円くらいの売り価格の生コンしか納入しないところがありますので、それだけ開きが出るんです。これは要するに、具体的に言えば、セメント直系は中小企業ではないのに、中小企業の顔をして潜り込んで来て、協同組合を支配しているからこういう事態が起きているわけです。
そうすると、阪神協は、この直系主導型の協同組合を専業主導型の方向に変えるという社会的使命があるわけですね。今のシェアの決め方。今まで、広域協組(大阪広域生コンクリート協同組合)とわれわれ労働組合を入れて、シェアのあり方がおかしいんじゃないかという議論をしてきました。大体セメントメーカー直系というのは、大きな工場を建てているんです。ところがシェアを決めるときに、工場の大きさが非常に大きな基準になっているんです。元々この社会というのは、コンパクトな工場で能率のいい仕事をしているところが評価されないとだめです。直系が大きな工場を持っているものですから、直系にシェアを厚くするためにそんな評価の仕方をするわけです。これについて、15ランクで決めていた従来のシェアを5ランクに落として専業にも厚くすると約束していたのに、一向に実行しない。
なぜ実行しないのか。今まで、広域協組の理事長・専務理事は東京でメーカーが決めているんです。広域協組の2年に一度の人事は東京で決めているんです。今、宇部三菱の人間が理事長で、専務理事は住友大阪。来年人事の年です。今度は住友大阪が理事長、専務理事は太平洋でしょう。この人たちが東京で決める権限も資格もないでしょう。こういう体質を変えていくというのが、阪神協の三つ目のやらなければならない課題ですよ。
これは何のためにやるのか。それは、中小企業のための、中小企業にふさわしい協同組合運営をし、そして、中小企業に利益を還元できるようなシステムのためにそういうことをやらなければならないわけですよ。そういうことによって初めて、相互扶助の精神を基(もと)にした協同組合というものが健全に発展するんですね。そのために労働組合も側面から協力をする。
それで、労働組合によっては「中小企業は中小企業に任せておけばいい、自分たちは賃上げだけをやればいい」ということを言う労働組合があります。こういう労働組合では、木を見て森を見ない、ということじゃないですか。森全体を見ながら木=個社を見なければならないわけです。つまり、環境とか全てに通じる考え方になるわけですが、全体像の中でこの業界はどうあるべきか。つまり、大局観を持って個別を見ていくという、この視点がない。産業をどうするのかという視点がないから、労働組合がその政策運動に積極的に関与することを否定してしまう。
つまり、企業間競争に労働組合が埋没するとんでもない日本の労働組合の一番の悪弊(あくへい)を引き継ごうとする労働組合ですね。そういう労働組合を乗り越えて、われわれは、労働者という弱い立場の人間は群れをなさなかったら、労働力商品の対等な取引ができない。だから、経営者も団結することによって、大企業との対等取引に接近する。そういう意味では、弱いもの同士の共通項がいっぱいあるんです。もっと言えば、パイを大きくする点では労使が一緒になってやれるんです。そういう方向でわれわれはこれから運動していく。
ただ、わが生コン支部は44年の歴史を持っているんですが、生コン支部はセメントメーカーからやられてきたことに関しては、「3倍にして返せ」という思想で行動してきたものですから、大企業から恐れられるのはいいんですが、中小企業の中でも、「あの労働組合ができたら会社が潰れるんじゃないか」という恐れを持たれたりするんですよね。実は、昨日、某テレビ局の副ディレクターの方が私に会って取材したいということで来た。もう最初から顔が引きつっているんですね(笑)。まるでヤクザの大親分みたいな感じですね(笑)。そういう風に宣伝されているんです。
なんでそうなったのかと言うと、1980年代から当時の日経連(日本経営者団体連盟)の大槻文平という会長が、「関生型の運動は資本主義の根幹に触れる運動だ」と言った。今から26年ほど前ですから、関生(関西地区生コン支部)はわずか1,300人くらいしかいなかったんですよ。この労働組合が日本の社会システムを変えるんだという風に刻印を付けられて、共産党よりも関生の方が怖ろしいと言われた。こういう風にプロパガンダ(ある政治的意図のもとに主義や思想を強調する宣伝)を付けられたものですから、大体、セメントメーカー・ゼネコン・運輸、主たる産業では私を見たことない人でも、私が「怖い人」と映っているんですね。
そういう風につくられているものですから、よき中小企業の理解者であり、中小企業と一緒になって産業を民主化していこうとか、社会における中小企業の地位を向上しようという部分が薄まっているんです。ですから、このパンフレットの中にわれわれが言いたいこと、われわれがやりたいことが書いてあります。要するに、中小企業からは信頼され、求められる組合。大企業にとっては恐れられるように。権力に対しても恐れられる。そういう組合でなければいけないという風に思います。
今後とも、共通したテーマで、一緒に手を携えてともにがんばっていきたいということを申し上げたい。

(増田)ありがとうございました。
今のお話に関連するのですが、「提言」という新聞を資料に入れてあります。これは先ほど言いました中小企業組合総合研究所というところでつくっています。労働組合も参加されていますが、中小企業の経営者のみなさん、中小企業団体も参加されています。そこで、今、「阪神生コン会が協同組合化しましたよ」ということとか、「広域協組をもっと民主化しようね」というような内容も含めまして、逐一、そのときの事情に即応した形でニュースを出していますので、是非、みなさんこれをご一読下さい。
それと、今日は「コモンズ」という政治的な新聞も入れてあります。これも生コン支部とか、日本で元気にがんばっておられる方々、あるいは中小企業の人も応援するという新聞です。こういう新聞とか、あるいは「提言」を見ていただきながら、今日のお話をもう一回整理してもらうといいのではないか。あるいは今後の経営に役立ててもらいたいという風に思います。
それで、時間が大分押していますが、今日、2時間くらい座っておられて、どうしても一言言いたいと口がむずむずしている方もおられるかも知れません。本山先生と武委員長というコンビでお話されるという豪華な機会はまずないと思いますので、是非、一言質問したい、言っておきたいという方は、挙手されて、お名前は言わなくて結構ですから、質問だけされて、どちらにお答えいただきたいのかおっしゃって下さい。

(質問者1)今の政治・経済状況の変革のために、私たちは声を上げなければならないという思いを持って、本山先生にお聞きしたいと思います。先生のご本をざっと読ませていただいて、何点か疑問があったんですが、その中で2点だけお聞きします。
今日、小室が逮捕された。これは当然のことなんですよね。自己責任です。ところが現在の国家の大企業救済をみているとこれは許せない。AIGとか大きな企業が完全にモラル・ハザードを起こしている。どうすればいいのかなといつも私は思っていたんですが、今日、ESOPの話があって、「これだ」と納得させていただきました。
もう一点なんですが、本山先生のご本(『金融権力』)の第6章冒頭に、「金儲けは悪いことである」とあったんです。これは大変勇気のいる発言を先生は書かれたんだなと思ったんですね。私どものような庶民であれば、例えば、少しでもいい暮らしをしたい、いい服を着たい、おいしいものを食べたいと思います。そういうことを否定しているわけではないと思うんですが、このことについて、簡単なコメントをお願いしたいと思います。

(本山)はい。おっしゃる意味はよく分かります。私は危機を救済するために大きな国家をつくれということを言っているわけでは絶対にないんです。国家はやはり小さい方がいい。しかし、規制はいる。そのために、法律で規制するのではなくて、まさに武委員長がおっしゃった協同組合の自主規制と言うのかな、会員クラブをどんどん広めていって、会員としての自主規制をしていくという、この空間をどんどん増やしていく。そして、国家はそれの見張り役であるという方向へ持っていくべきだと思うんですね。大きな国家を言い出したら、またフリードマンみたいな人間が「ギャー」と言いますので、やはり協同組合方式しかもう残っていないだろうと思います。
二つ目の「金儲けが悪い」というのはどういう意味なのかということなんですが、私たちは米の値段が1/3になったからと言ってご飯3杯食べませんよね。車の値段が50万円になったからといって、「しめた」と言って、10台も20台も持ちませんよね。小室さんじゃあるまいし。お金は、1億円儲けたから「もういらんわ」とはならない。「もっとほしい」「10億ほしい」と、欲望に際限がないんですよ。
経済学はそもそも欲望をコントロールしていこう、制御していこう、ということが生まれた目的なのであります。アリストテレス(注73)が「オイコノミカ」という言葉で言った、人々に雇用を与えるのが経済なのに、金儲けの方向にお金が使われていくと、人々の雇用が失われてしまう。だから、社会を構成する構成員みんなが生きていけるようにするのが経済学であって、したがって、お金儲けはしてはいけない。
貨幣のことをギリシア語で「ノミスマ」と言います。私は『ノミスマ』という大きな本を1冊出しているんですが、日ごろの行いが悪いために人様に紹介されるときに「ノミマス」(笑)とよく間違われてしまいました。出版した出版社も堂々と広告に「ノミマス」と書いて、恥ずかしくて恥ずかしくて(笑)。「ノミスマ」、要するに、社会的合意の産物。みんながこうしましょうと決めたのがお金。そういう約束事で動くのが経済。ということなんで、「お金さえ儲ければいい」という風潮は絶対にやめなければならない。本当にそう思います。

(質問者2)生コンの企業を経営している者なんですが、先ほど、サブプライムローンや世界的な大恐慌についてご説明があったわけですが、私どもの産業ではそれに先立って、すでに原材料・燃料の高騰に悩んでいるところであります。
それは私たち生コン産業においては、全ての面で燃料というのは欠かすことのできないものであって、特に今年の春ごろ、各セメントメーカーから1,000円~2,000円/トンの値上げを要求されまして、生コン産業ではそろそろ支払が始まっているところです。さらに、来年春を目処にセメントメーカーは2,000円からの値上げを打ち出してくるだろうという風に、業界ではまことしやかにささやかれているわけです。
私たち生コン産業の責任問題という意味では、そういったことが事前に宣伝されているにもかかわらず、その値上げに対して充分な準備ができないまま、後を追っかける形で生コンの値段を戻していくというようなことで、後手になってそれぞれ経営を圧迫している状況が続いています。その状況というのは、私たちの自己責任であって、今後、そういった展望というか、石油価格の状況を事前に判断しながら、また、原材料がどのように上がっていくのかということを見据えながら、私たちは生コン産業として価格の構成を考えていかなければならないと思います。
実際に、こういったサブプライムローンだとか、ヘッジファンドの問題が影響して、また昨今では石油価格が下がってきていると思うんですが、今後の見通しとして、どのような石油価格の動向になっていくのでしょうか。その辺りについて、それぞれ、武委員長また本山先生の意見をうかがいたいと思います。

(本山)じゃあ、私から先に。
投機。要するに、石油だったら石油を売る人・買う人の当事者以外の第3者がその取引に加わることを投機と言うんですよ。ですから、石油問題のときには、ほとんど9割以上は金融業者だった。ということで、一切原油なんて見たこともない人が石油の取引をやるんです。
これは取り締まらなければいけない。つまり、そういう先物商品市場(注74)はこの世の中から価格の安定を妨害する限りにおいては潰してしまう。つくってはいけないんだ。そういう国民的な合意を得るべきだと私は思いますね。
これは商品インデックス(注75)と申しまして、色んな商品を組み合わせて、ゴールドマン・サックスとAIGが発売しているんですね。これは、小口の商品をいっぱいつくって、それを投資信託にして、その投資信託を庶民に売りつけるということをやっているんです。これは絶対禁止しなければならない。FX(外国為替証拠金)取引(注76)なんていうのはその際たるものなんですけれどね。こういった無茶苦茶な投機をいくらでも生み出していくようなメカニズムは法律で禁止してもらいたい。
二つ目。だから外交がいるんであって、先ほど武委員長がチャベスの話をしましたけれど、チャベスは自分の仲間、友だちを増やしたいために、石油を1バレル=15ドル~20ドルで世界に売っているんですよね。しかし、われわれはメジャー(注77)を通さなければだめなんですよね。そうすると、1バレル=100何十ドルという石油を買わされているのであって、どうしてチャベスと取引しないのか。どうしてサウジアラビアと直接取引しないのか。
こんな高い値段で貧乏な国々が石油を買えると思いますか。一握りの先進国が独占的な形態の下で押し付けられているんですよ。世界でそうやって安く買える石油をつくっていかなければならない。取引しないといけない。メジャーが支配している油田というのは世界で10%を切っているんです。残り90%はアメリカ以外の反米的なロシアとか、あるいはアフリカとか、南米とか、そういった国々が国有企業で石油を生産・販売している。そことの取引は日本はゼロなんです。こういったところに政治の問題が絡んでくるんです。
ですから、石油の将来がどうなるのかというよりも、とにかく、あらゆるルートを通じて、安い品物・原料を手に入れるという方向へ動いていくしかない。それから、長期的にはわが日本には、ブタンというガスが実はたくさんあるんですよ。そういうものがいっぱいあるので、そういった開発を進める。あるいは世界的に出ている石炭の液状化とか、そういった技術をこれからどんどん開発していかなければならない。
しかし、われわれは受身になっているんですね。ニューヨーク原油というのは無茶苦茶でしょう。石油が取れませんからね。西テキサスオイルなんですが、埋蔵量0.1%なんですよ。そんなもので世界の価格が振り回されている。こういう投機的なアメリカの金融の犠牲になっているんだったら、それにはっきり気付いて、そこを切り裂いていく。そういった方法はいくらでもあるんですよ。だから、一言で「対米従属政治はやめろ」「自主外交をやれ」と。そういうところから、われわれの路線は開けてくる。
石炭の液状化に日本がまい進したらアメリカは潰しにきますよ。少なくとも、アメリカメジャーの支配から逃れる日本は許さんということで。しかし、怒らせてもいいから、あえてわれわれの自主技術で日本の内部の資源を開発する。それまでの間、チャベスであろうと誰であろうと、とにかく安く売ってくれるところに移っていく。メジャー支配から脱却する。
こういうことが誰の目にも明らかな路線なんですよ。こういったことに多くの人たちが早く気付いていただきたい。だから、外交なんです。アメリカにぺこぺこすることが外交ではないんです。特に、アメリカとけんかしながら世界の友だちを探しまくるのが外交なんですよ。わが日本で、アメリカ以外の国と真剣に付き合った政治家はいるのか、ということを本気で言いたいのであります。

(武)一つは、原油は150ドルから60ドルまで落ち込んでいるわけですよね。多分もっと下がる可能性がありますね。世界的に見て、景気が悪くなっていく。供給能力の方が過多になって、需要が伸びないということになったら、法則的に価格が下がるという点がありますね。先生がおっしゃったように、構造上変えていくということをきちんと頭に置きながら、今までみたいな高騰はいくらか抑制せざるを得ない。
それともう一つは、円高が進んでおりますよね。これはシャープの計算などによると、1円円高になるだけで、シャープは22、23億円損するそうですよ。ということは、逆に輸入業は安く入るんですよね。ですから、実際の原油の値段というのはもっと安くならなければいけないと思うんですね。本来でしたら、軽油なんか70円/リットルでいいんじゃないですか。ところが、今おっしゃるように、メジャーが支配していますから、そいつらが中間搾取してしまうものですから、こういう値段になっているんですよね。ですから、それはなぜそうなっているのか、どういう風に改善するのか、という問題意識を持って対処しなければならない問題ではないかと思います。
それと、もう一つは、圧送協・輸送協・近バラ協で共同購入方式を採用していますね。協同組合だから、そういうこともやるべきだと思うんですよ。共同購入することによって、安定供給し、できるだけ安い物を買うということ。ところが、今の広域協組にそういうことを求めてもこいつらは何にもしない。全くこれを考えていない。今の広域協組のセールスポイントは現金回収していることだけですよ。現金回収にしても、今の広域協組執行部は何の汗も流していないんですよ。われわれが必死になって、本当に体を張って現金回収にしたんですよ。こいつらに共同購入を言ったって、絶対しない。しかし、本来、共同購入などをすることによって、スケールメリットを活かして、安い物を仕入れて安く組合員に提供するというのは協同組合のやるべきことでしょう。
それから、セメントを3,000円来年4月から上げると言っていることについて、この間メーカーは1,000円上げましたよね。阪神協はそれについては保留しようということで、7月から(値上げ分の支払いを)止めていました。これは11月になったらぼちぼち返そうということになった。なぜか。7月から生コンの値戻しをやっていますから、本来でしたら今、値戻ししているはずですよね。そうすると、値戻しの効果が出たら、1,000円の分は未払金だったから支払いなさいとなっている。
ところで、来年3,000円上げるということについて、なぜセメントメーカーはいち早くそれを発表したのかと言うと、アリバイづくりなんですよ。「うちは前からそういうことをお願いしていたんだ」と。そしてお願いして言うことを聞かなかったら、バルブを閉める(セメント納入をストップする)。こういうやり方で、今までやっているんですね。絶対これは許したらだめです。
私は何べんも広域協組の今の理事長に主張したんですよ。「何で協同組合がセメントの値上げを認めるんだ」と。上げるのであれば原価公表しなさい。どういう原価になっているのか。セメントの国内需要は、1990年にピークに達して、8,800万トンちょっとあったんですが、今は5,500万トンくらいに落ちたんですよ。5,000万トン切るところまで落ちているのに、近畿2府4県にサイロは52、3工場あるんですよ。あんなサイロなんかいらないんですよ。置いておくだけで維持管理費が高くつくんですよ。1/3でいい。もっと少なくてもいい。そんなこともせずに、その維持費も全部セメントの値段に転嫁するんですよね。だから、阪神協は今年12月に、「原価公表し、納得できるような合理的根拠のない限りは来年の3,000円の値上げは認めない」ということをセメントメーカーに申入れようとしております。
それと、もう一つは、阪神協に入っている各社は個別のセメント取引をしない。要するに、値上げを勝手に認めない。協同組合が了承するまでは値上げをしない。この二つの縛りをかけよう。
そうすると、広域協組は102工場入っていますが、広域協組もそうせざるを得ないんですよ。これはそうしなければいけないんですよ、本来。何でセメントメーカーに何の根拠も聞かずに値上げを受けなければならないのか。協同組合がそれに「待った」をかけるべきですよ。それをするには、阪神協がしっかり先陣を切ってやっておけば、まともなことですから、まともな運動が広がります。
それから、もう一つ。この広域協組の頭を変えなければだめなんです。直系の連中は本来、協同組合に入ること自体、独禁法違反なんです。公正取引委員会に対して、「(直系社に対する協同組合からの)排除命令を出せ」ということを主張しております。そして、来年は人事の年ですよね。来年は専業を中心に、今日出席している若い人たちがおりますよね。そういう人たちが軸になって協同組合をつくり直す必要があるんですよ。今までは東京で決めるのが習慣だったけれど、そういうことを習慣で決めていてはいけない。専業中心に変える。これから阪神協の役割は大きいし、独禁法違反の排除命令を出させて、労働組合も専業の人たちも一緒になって、まともな協同組合にしようじゃないですか。
そうすれば、いくら外的な要因があっても、内部がしっかりする。潜在的な内部にある力を押し出していけば、適正な取引関係、つまり対等な取引を目指すのが協同組合の一つの役割でありますからね。そういう方向で、今の問題を解決することにつながると私は考えます。

(増田)ありがとうございました。
もうそろそろ時間なんですけれど、誰かおられます?そうしたら、最後ということで、よろしくお願いいたします。

(質問者3)本山先生にお聞きしたいんですけれど、世界の経済が崩壊すると、日本経済も崩壊するだろうということで、私たちの業界もこれから何がどうなっていくのだろうかと、すごく不安であります。
それで、ゼネコンが倒産すると、僕らはゼネコンから代金をもらうわけなんで、そのときに、企業が成り立たない状態になってしまう。その点で言うと、中小企業経営者である僕たちは借金まみれになる可能性があって、普通に働いている人の方がうらやましく思えるような時代になるかな、と思うんです。
そういう点で、これからゼネコンとか経済はどうなるのか、ということについてお答え願えたら、今日の確信になるかなと思います。

(本山)あえて端的に申しまして、世界的な広がりというのは逆流している。これからは「地域」がキーワードになってくると思う。地域で生きのびる。まさに共生ですね。世界ではなく、地域でいく。
具体的には、ゼネコンという存在も本当は許してはいけない。少なくとも、その地域の仕事はその地域で受けるであって、入札競争で東京の大ゼネコンが落札して、あとは地域の中小の下請に丸投げでしょう。それで、ピンハネしていくという。これはやめなければいけません。地域の公共事業は地域の企業にやってもらう。田舎だったら田舎の建設業者にやってもらう。こういうことをしなければ、建前論的に入札競争で「公明正大」なんて嘘ですよ。始めから「出来レース」ですよ。とにかく設計図一つで、お役所というのは半年でやってしまえばいいわけですから。そうすると、実績のある企業が受注するに決まっているんですよ。
こういうことを考えていますと、私たちがローカルな建設会社をつくりだしていく。そのためにローカルなマーケットはお互いに守っていくんだということ。排他的でないにしても、色んな形で地域性というものをクローズアップしていく必要があると思います。そういう意味では、今後どうなるのかと言われれば、私は地域的な社会の復活となるだろうと思います。
もっと大きいことを申しますと、実は、今日話すタイミングがなかったんですけれど、経済安定本部(注78)というものが戦後すぐにできたんです。昭和26年(1951年)12月に利潤分配法というものをつくって、内閣を通りそうだったんです。芦田内閣(注79)のことだからスキャンダルにまみれてしまって、潰れてしまったんでありますが。それは企業の利潤の一定程度は労働組合にまわしていくという内容です。一握りの経営者が高給を取るためではなくて、圧倒的多数の労働者の生活を守るために、給与以外の資金を出していくということを法律的につくっていこうことを日本ではやろうとしたことがあります。
言うまでもなく、戦後の激しい労働運動を何とか抑えたいという気持ちからでしょうけれど、逆に言えば、労働組合運動が沈滞すると、こういう法案一つ、つくろうとしない。労働組合運動がものすごく盛んになってきたら、何とかなだめなければいけないからということで、労働者向けの法律がつくろうとされていく。
戦後直後の経済安定本部というのは、ものすごく一生懸命ものごとを考えていてくれていたんですよ。ずばり申しましたら、当時の審議会委員長はほとんどマルキスト(マルクス主義者)ですよ。今のような新自由主義者はほとんどいませんでした。
こういうことを考えてみたときに、今こそ、私はあえて、戦後直後の日本の再建というところへもう一度目を向けていって、なぜ日本はここで生きのびてきたのかということですね。実は、1945年当時、世界の最貧国であった日本。これがわずか11年後の1956年、「もはや戦後ではない」(注80)と言った。これは、世界の5大工業国の一角に復帰したということです。たった11年でです。つまり、日本的な組織、日本的な共生、日本的なメンタリティーがあるときには、経済復興は簡単なんです。逆に、アメリカ的な、本当にバラバラな社会は一度ひっくり返ったらなかなか直らないだろう。直っていくパッション(情熱)がない。
だから、私は誤解を恐れずあえて申します。日本的なものの再発見をみなさんにやっていただきたい。11年で復帰できたということはものすごいことです。「なぜなんだろう」というときに、そのときの経済安定本部とか、審議会の連中たちの意見とか、そういうものが少なくとも労働者の立場でものを考えようとしていた。日本占領時、占領軍は大体、アメリカの左翼が中心だったんですね。かなりGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の中には左がかった連中たちが多くて、これが日本にとってよかったんです。日本では成功しましたが、イラクのときは全然違います。全くイデオロギー的に正反対の統治であったということを思い出して下さい。
そういう意味では、自衛隊の空幕長(田母神俊雄・前航空幕僚長)はとんでもないやつで、あんなやつがいるからだめなんですね。もっと戦後何をやってきたのか、日本の占領下でどういうことが行われてきたのかということのプラス面も評価しながら、それを活かしていこうという方向で、私は流れが来ると思います。
話が随分それましたけれど、少なくとも今は歴史的には苦しいけれども、必ず展望が開けるんだという風に私は思っています。そのキーワードは地域性ということだと思っています。

(増田)最後に武委員長何かございますか?

(武)今、先生のおっしゃったことに同感です。

(増田)そうしましたら、いつもですとみなさんもう目で私に「早く終われ」と言われるんですが、今日は目がらんらんと輝かれて、最後まで熱心に参加いただきましてありがとうございます。
今日、つたない進行でありましたけれども、武委員長と本山先生という非常に、日本で最先頭を行く理論家であり実践家であるお二人のお話を聞けたということで、これを一つの糧(かて)として、今後の中小企業経営に活かしていただきたいという風に思います。
それではここで一旦終ります。後は司会の方にバトンタッチします。どうもありがとうございました。

(司会)どうもありがとうございました。
この経済危機の中、労働組合や中小企業がどのような格好で今後進んでいくべきか、ということで、ポイントを抑えて、約1時間45分にわたって講演いただきました。改めて、3名に拍手をお贈りいただきたいと思います。
この学習会はこれで終了します。今後も時代に応じた学習会を節々でやっていくということをお約束して、ここで終了したいと思います。どうも、長時間にわたってありがとうございました。


用語解説

1 恐慌
景気変動の後退局面で、需要の急速な低下、商品の過剰、物価の下落、信用関係麻痺(まひ)、企業倒産、失業が急激かつ大規模に生じ、一時的に経済活動全体が麻痺すること。経済恐慌。パニック。

2 バラク・オバマ
バラク・フセイン・オバマ・ジュニア(1961~)。米国の政治家。ハワイ州生まれ。第44代アメリカ合衆国大統領当選者。政党は民主党。選挙により選ばれたアメリカ史上3人目のアフリカ系上院議員(イリノイ州選出、2005年 - 2008年)。2008年アメリカ大統領選挙で当選後、任期を約2年残して上院議員を辞任した。
アメリカ大統領としては初のアフリカ系・1960年代以降生まれ・ハワイ州出身者となる。

3 小室哲哉
小室哲哉(1958~ )。東京都府中市出身の音楽プロデューサー、作詞家、作曲家、編曲家、キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、ミキシングエンジニア、DJ、アーティスト。
2008年11月4日、著作権譲渡を巡り、投資家の男性から計5億円をだまし取ったとして詐欺罪で逮捕。後日、起訴された。

4サブプライムローン
主に米国において貸し付けられたローンのうち、信用度の低い人向けのローンのこと。狭義には、住宅を担保とする住宅ローンに限定され、広義には、自動車担保など住宅以外を担保とするものを含む。一般的に他のローンと比べて信頼度が低い。
2007年夏頃から、主に住宅ローン(狭義のサブプライムローン)返済の延滞率が上昇し、住宅バブルがはじけ、これを組み入れた金融商品の劣化をきっかけとした世界的な金融不安が発生している。

5 株暴落
2008年9月29日、今回の金融危機に対処するための公的資金注入を定めた緊急経済安定化法案が米下院で否決されるとNYダウは史上最悪となる-777ドルをつけるなど、一気に金融信用収縮が加速。 10月1日には下院で修正案が可決されたものの、7日にはロシアでは株価が19%下落し、アイスランドでは対ユーロでクローナが30%下落し、同国では全ての銀行が国有化されるなど、未曽有の世界同時金融危機が本格化した。 翌8日、NYが-678ドルをつけると、日経平均は翌日881.06円安(-9.62%、過去3番目/当時)と暴落した。

6 ファンド
ファンドとは「基金」の意味で、多数の人から資金を募り、それで投資などを行う集団投資スキームを指すが、最近は投資信託の名前に使われることも多くなってきたので、投資信託それ自体のことを指す場合もある。

7 カール・マルクス
カール・マルクス(1818~1883)。ドイツの経済学者・哲学者・革命家。ヘーゲルの観念的弁証法、フォイエルバッハの人間主義的唯物論を批判して弁証法的唯物論を形成。これを基礎にフランス社会主義思想の影響の下で古典派経済学を批判的に摂取、資本主義から社会主義へと至る歴史発展の法則を明らかにするマルクス主義を創唱。また、終生革命家として国際共産主義運動に尽力した。主著「資本論」。

8 空売り
他人から株券を借りてきて売却すること。
株式を持っていない投資家が証券会社などから株券を借りてきて、その株式の売却を行う信用取引のひとつ。「信用売り」ともいう。
空売りは、近い将来に株価の下落が予想されている局面で、投資家にとって有効な取引手段となる。なぜかと言うと、借りてきた株券は一定期間後に証券会社に返さなければならないが、売却時の株価よりも安く買い戻すことができれば、その差額が投資家の利益となるからだ。反対に、株価が値上がりしていれば損が発生するといったリスクを伴う。

9 バーゼル規定
国際業務を行う銀行の自己資本比率に関する国際統一基準。BIS規制とも言う。BIS規制では、G10諸国を対象に、自己資本比率の算出方法(融資などの信用リスクのみを対象とする)や、最低基準(8%以上)などが定められ、自己資本比率8%を達成できない銀行は、国際業務から事実上の撤退を余儀なくされる。

10 金融自由化
政府によって管理されている金利、業務分野、金融商品、店舗などの規制を緩和すること。金利の自由化や、金融機関の業務分野規制の緩和、国内外の資本取引の自由化などの総称となっている。米国では1970年代から金融の自由化が始まり、日本では1980年代になってから個人金融資産の増加や、海外との相互依存関係により急速に加速した。1994年に預金金利の自由化が完了している。


11 護送船団方式
日本の行政手法の一つ。軍事戦術として用いられた「護送船団」が船団の中で最も速度の遅い船に速度を合わせて、全体が統制を確保しつつ進んでいくことになぞらえて、日本の特定の業界において一番経営体力・競争力に欠ける事業者(企業)が落伍することなく、存続していけるよう、行政官庁がその許認可権限などを駆使して業界全体をコントロールしていくことである。
特に、第二次世界大戦後の日本の金融行政において典型的にみられるが、金融業界以外でも様々な業界で行政官庁の強力な行政指導が存在し、これらも「護送船団方式」と表現されることがある。

12 レバレッジ
経済活動において、他人資本を使うことで、自己資本に対する利益率を高めること、または、その高まる倍率。

13 CDS
クレジット・デフォルト・スワップ(Credit default swap)のこと。貸付債権の信用リスクを保証してもらうオプション取引。従来の銀行保証をデリバティブ(金融派生商品)につくり変えたもので、貸付債権にデフォルト(債務不履行)が起こった際に、その損害額を保証してもらう。
信用リスクを回避しようとする者をプロテクション(保護)の買い手、保証を与える者をプロテクションの売り手と呼ぶことにすると、クレジット・デフォルト・スワップは、プロテクションの買い手が、売り手にプレミアムを支払って、ローン債権の返済の保証を得る取引。プレミアムの支払方法にスワップ(交換)の形式が利用されるところから、一般にクレジット・デフォルト・スワップと呼んでいる。他に、デフォルト・プットやデフォルト・プロテクションとも言う。

14 シャドーバンキングシステム
サブプライム問題が表面化する前、欧米の大手金融機関は連結決算の対象から外せるペーパーカンパニーを相次ぎ設立し、多額の資金を調達・運用してきた。このシステムをシャドーバンキングシステムと言う。中央銀行などが銀行経営には厳しい監督の目を光らせる半面、こうした簿外の資金調達は野放しになっていた。

15 ロバート・ルービン
ロバート・エドワード・ルービン(1938年~)。米国の銀行家・財政家。1960年ハーバード大学卒業。米国投資銀行大手ゴールドマン・サックスに26年間勤務。 その後、ホワイトハウスで国家経済会議(NEC)委員長と財務長官として6年強、政界に身を置く。 現在は世界最大の金融グループであるシティグループの経営執行委員会会長。

16 G20
G8は日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、ロシアがメンバーだが、G20では、それにアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、ヨーロッパ連合(EU)が加わる。 G20による財務相・中央銀行総裁会議が2008年11月8日・9日(現地時間)、ブラジルで開かれた。今回の金融問題を受け、金融取引に対する規制強化などが話し合われた。同月14日・15日には米国ワシントンで、G20の首脳と財務大臣らによる金融サミットが開催された。

17 BRICS
経済発展が著しいブラジル (Brazil)、ロシア (Russia)、インド (India)、中国 (China) の頭文字を合わせた4ヶ国の総称。

18 村上ファンド
元通商産業省官僚の村上世彰(よしあき)氏、元野村證券次長の丸木強氏、元警察庁官僚の滝沢建也氏らが率いていた、投資、投資信託、企業の買収・合併に関わるコンサルティングを行っていたグループの通称。中核となる企業は、株式会社M&Aコンサルティングや株式会社MACアセットマネジメント。
2006年6月5日、 村上世彰氏は証券取引法違反(インサイダー取引)で逮捕され(村上ファンド事件)、1審では懲役2年、罰金300万円、追徴金11億4900万円の実刑判決が下された(係争中)。

19 市場原理主義
全てを市場に委ねれば公平さと繁栄が約束され、市場へのいかなる干渉も社会的幸福の減少につながるとする思想的立場。

20 フリードマン
ミルトン・フリードマン(1912~2006)。米国の経済学者。20世紀後半の主要な保守派経済学者の代表的存在。戦後、貨幣数量説であるマネタリズムを蘇らせマネタリストを旗揚げ、反ケインズ主義の宗主として今日の経済に多大な影響を与えた。米国のレーガノミックス(レーガン政権)や英国のサッチャー政権の経済政策の理論的支柱を提供した。日本の小泉純一郎政権の「聖域なき構造改革」についても、大きな影響を与えたと言われている。

21 シカゴ学派
シカゴ大学を中心に確立された競争と自由市場の有効性を説く学派。現代では、新自由主義とマネタリズムを標榜する。

22 チャベス
ウゴ・ラファエル・チャベス・フリアス(1954~)。ベネズエラの政治家、第53代同国大統領。
1998年の大統領当選以降、チャベスは国民投票によって新憲法を制定し、旧体制を解体。石油産業を国家の統制下に置き、新自由主義政策を大きく転換。当初は、貧困層への緊急救援政策を中心に実施。そして、インフレ抑制策、土地改革を推進し、教育機会均等化をはかり、協同組合運動を推進し、小規模企業の開発計画を推進した。また、低価格で食料を、無償で医療を提供。一方では、直接民主制を広く導入し、住民参加の民主主義を推進するため「住民自治体」の組織化を進める。

23 南の銀行
南部銀行(Bank of the South、バンコ・デル・スル)のこと。2007年12月、南米7ヶ国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、エクアドル、ボリビア、ベネズエラ、ウルグアイ)が世界銀行や国際通貨基金に対抗して開設した開発銀行。
調印式でブラジル・ルラ大統領は、同銀は「インフラ整備、科学技術などの主要な経済分野に出資し、地域により均衡をもたらす」と述べた。またブラジル政府報道官は、新銀行が「域内の統合と南米国家共同体の強化に重要な役割を果たす」との見方を示した。

24 国際通貨基金
国際通貨基金(International Monetary Fund, IMF)は、1944年7月、米国ブレトン・ウッズにおいて開催された連合国通貨金融会議(通称、「ブレトンウッズ会議」)において調印されたIMF協定に基づき、1946年3月に設立された国際金融機関。通貨に関する国際協力の促進、為替の安定促進、加盟国の国際収支不均衡を是正するための基金の一般資金を一時的に加盟国に利用させることなどを目的としている。

25 基軸通貨
国際間の決済や金融取引に広く使用される通貨。英ポンドは19世紀半ば以降、国際金融の中心地としてのイギリスの強力な立場を背景に基軸通貨としての役割を担っていたが、第一次世界大戦で欧州各国は経済が疲弊し逆に米国は戦争特需で経済が急成長したため、(正式では無いが)基軸通貨が機能面で英ポンドから米ドルへ移り、第二次世界大戦後は米国がIMF体制の下で各国中央銀行に対して米ドルと金との交換を約束したこと及び米国の経済力を背景に米ドルが名実共に基軸通貨となった。

26 ニクソン・ショック
1971年米国が、それまでの固定比率によるドルと金の交換を停止したことによる、国際金融の枠組みの大幅な変化を指す。ニクソン大統領(当時)が国内のマスメディアに向けこの政策転換を発表したことにより、ニクソンの名を冠する。ショックと呼ぶのは、この交換停止は米国議会にも事前に知らされておらず極めて大きな驚きを与えたこと、またこの交換停止が世界経済に甚大な影響を与えたことによる。ドル・ショックとも呼ばれる。

27 年次改革要望書
正式名称は「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」。日米両政府がそれぞれに対しての要望をまとめた公文書であり、毎年10月に提出される。
米国側からの要望が施策として実現した例は、郵政民営化、労働者派遣法改正、健康保険の本人3割負担、新会社法の三角合併制度など多岐に渡る。

28 金融工学
資産運用や取引、リスクヘッジ、リスクマネジメント、投資に関する意思決定などに関わる工学的研究全般を指す。

29 正規分布
数学で、統計資料をいくつかの階級に分けたとき、その平均値の度数を中心に、正負の値の度数が同程度に広がる分布。グラフは正規曲線となる。ガウス分布。

30 安保闘争
1959年から翌年にかけて展開された、日米安全保障条約の改定に反対する闘争。1960年の自民党による強行採決後の6月には全国的な運動に発展し、岸内閣は条約の自然承認後7月に退陣した。また、1970年の条約延長に対しても激しい反対運動が展開された。

31 クリスチャン・ハーター
クリスチャン・アーチボルド・ハーター( 1895~1966)。米国の政治家。1953年~1956年までマサチューセッツ州知事を、1959年~1961年まで国務長官を務めた。

32 アメリカ通商代表部(USTR)
アメリカ大統領府内に設けられた通商交渉のための機関。USTR長官にあたる通商代表は、閣僚級ポストで大統領に直属。大使の資格を持ち、外交交渉権限を与えられている。

33 経済財政諮問会議
日本の内閣府に設置される「重要政策に関する会議」の一つ。内閣総理大臣の諮問を受けて、経済財政政策に関する重要事項について調査審議する。2001年1月の中央省庁再編とともに設置され、設置根拠は内閣府設置法第18条。

34 アインシュタイン
アルベルト・アインシュタイン(1879~1955)。ドイツの理論物理学者。
20世紀に於ける物理学史上の2大革命として”量子力学”及び”相対性理論”が挙げられるが、以前から論理的に展開されていた相対性原理(アンリ・ポアンカレ、ジョゼフ・ラーモア、ヘンドリック・ローレンツなど)に新しいいくつかの仮定を導入し物理学における相対性理論の基礎を築き上げたその業績から、20世紀最大の理論物理学者と目されている。
光量子仮説に基づく光電効果の理論的解明によって1921年のノーベル物理学賞を受賞。

35 ゼロ金利
1999年2月から日本でとられた金融政策のこと。
1998年、バブル崩壊後最悪の経済状況となる中で、大規模な財政政策がとられた。金融政策においても緩和が求められることになり、1999年2月、短期金利の指標である無担保コール翌日物金利を史上最低の0.15%に誘導することが決定された。このゼロ金利政策は2000年8月に一度解除された後、2001年3月には量的金融緩和政策が導入されて再び短期金利が実質的にゼロとなった。2006年7月、ゼロ金利政策は5年4ヶ月ぶりに解除された。
この政策が長引いた結果、国民や企業の金利所得が大幅に減った。その一方で、企業の評価損による累積債務を償還するのに大きく役立った。

36 新古典派経済学
経済学における学派の一つ。日本においてはマルクス経済学に対する近代経済学の一派に数えられてきた。
もともとはイギリス古典派の伝統を重視したマーシャルの経済学を指したとされるが、一般には限界革命以降の限界理論と市場均衡分析を取り入れた経済学を指す。数理分析を発展させたのが特徴であり、代表的なものにワルラスの一般均衡理論や新古典派成長理論などがある。新古典派においては物事を需給均衡の枠組みで捉え、限界原理で整理し限界における効率性の視点で評価を行う。

37 住宅金融公庫(連邦住宅金融抵当金庫)
連邦住宅金融抵当金庫は米国の金融機関。フレディ・マックの愛称が広く浸透している。
連邦住宅抵当公庫(FNMA、ファニーメイ)と役割はほぼ同じであり、ニューヨーク証券取引所に上場している民間企業である。民間企業であるが公共的な事業目的から、発行債券には政府の暗黙保証があるとされる。サブプライムローン問題で保有する住宅担保証券の価値が目減り(結果的に自己資本の減少)し、2008年9月現在米国政府の管理下にあり、普通株および優先株の配当が停止されている。

38 マルクス経済学
カール・マルクスの主著『資本論』において展開された経済学の諸カテゴリー及び方法論に依拠した経済学の体系。
マルクスは、アダム・スミス、デヴィッド・リカードらのいわゆるイギリス古典派経済学の諸成果、殊にその労働価値説を批判的に継承し、「剰余価値」概念を確立するとともに、その剰余価値論によって資本の本質を分析し、同時に古典派経済学の視界を越えて、資本主義の歴史的性格をその内的構成から解明しようとした。

39 アダム・スミス
アダム・スミス(1723(洗礼日)~1790)。イギリスの経済学者・哲学者。主著は『国富論』。「経済学の父」と呼ばれ、近代経済学の基礎を築いた。経済活動を個々人の私利をめざす行為に任せておけば「神の見えざる手」により社会全体の利益が達成されるとし、自由放任主義経済を主張した。

40 リカード
デヴィッド・リカード(1772~1823)。自由貿易を擁護する理論を唱えたイギリスの経済学者。各国が生産性の高い商品を重点的に輸出することによって、それぞれの国が富を得るという「比較生産費説」を主張した。また、労働価値説の立場に立ち、 経済学を体系化することに貢献し、古典派経済学の経済学者の中で最も影響力のあった一人である。

41 近代経済学
「限界革命」以降の経済学体系のうち、マルクス経済学以外のものの総称であり、ミクロ経済学とマクロ経済学に大別される。
この呼称は日本独特のもので、マルクス経済学が主流であった時代に用いられるようになった。呼称が広まった当時は近代経済学=ケインズ経済学であった。マルクス経済学が論理的・文章的に資本主義を分析することに重点を置いているのに対し、近代経済学においては多くの場合数学的モデルを仮定してその最適解を求めることに重点が置かれる。

42 郵政民営化
旧郵政省から継承して郵政公社が運営していた郵政三事業(郵便・簡易生命保険・郵便貯金)と窓口サービスを国から民間会社の経営に移行すること。2005年に成立した郵政民営化法案に基づき、2007年10月に実施され、日本郵政グループに分社化された。

43 国鉄の分割・民営化
中曽根康弘内閣が実施した政治改革。 日本国有鉄道(国鉄)をJRとして6つの地域別の旅客鉄道会社(JR東日本・JR東海・JR西日本・JR北海道・JR四国・JR九州)と1つの貨物鉄道会社(JR貨物)などに分割し民営化するものである。これらの会社は1987年4月1日に発足した。

44 終身雇用制度
学校を卒業してから1つの企業に就職し、その企業で定年まで雇用され続けるという、正社員雇用における雇用慣行。

45 年功序列型賃金
仕事の資格や職務内容ではなく、おもに年齢と勤続年数によって賃金が決定される賃金システム。

46 企業別労働組合
1つの企業を単位に結成される労働組合のこと。日本の労働組合の大多数がこれにあたる。組合員の資格は、その企業の正社員に限られている場合が多い。欧米では,企業の枠をはなれて、同じ種類の産業ごとに労働者が集まって結成される産業別労働組合の力が、企業別組合より強い。

47 レイオフ
不況による操業短縮などに際し、余剰となった従業員を景気回復後に再雇用する条件で一時解雇する制度。日本では、一時帰休の意に用いることもある。

48 ヒトラー
アドルフ・ヒトラー(1889~1945)。ドイツの政治家。オーストリア生まれ。第一次大戦後、ドイツ労働者党に入党、党名を国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)と改称して1921年に党首となった。23年、ミュンヘン一揆に失敗して入獄。世界恐慌による社会の混乱に乗じて党勢を拡大し、33年に首相、翌年総統となり全体主義的独裁体制を確立。侵略政策を強行して、39年第二次大戦をひき起こしたが、敗戦直前に自殺。著「わが闘争」。ヒットラー。

49 協同組合
農林漁業者・中小商工業者、または消費者などが、その事業や生活の改善を図るために、協同して経済活動などを行う組織。農業協同組合・生活協同組合など。

50 NPO
Non-Profit Organizationの略で、ボランティア団体や市民活動団体などの「民間非営利組織」を広く指す。つまり、株式会社などの営利企業とは違って、「利益追求のためではなく、社会的な使命の実現を目指して活動する組織や団体」のこと。
このうち「NPO法人」とは、特定非営利活動促進法(NPO法、1998年12月施行)に基づき法人格を取得した「特定非営利活動法人」の一般的な総称。

51 国際協同組合連盟(ICA)
1895年に設立され、本部をジュネーブに置く世界の協同組合の連合組織で、生協・農協・漁協・森林組合・労働者協同組合・住宅協同組合・信用協同組合など94ヶ国の協同組合組織が加盟している。組合員総数は7億6,000万人に達している。
ICAは国連の経済・社会・教育活動を統括する経済社会理事会から特別の諮問機関の地位を与えられており、その他国連の協同組合関連プロジェクトを遂行する国連開発計画(UNDP)・国際労働機関(ILO)・国連食糧農業機関(FAO)・国連教育科学文化機関(UNESCO)などの国連専門機関とも密接な協力関係を築いている。

52 グラミン銀行
バングラデシュにある銀行。『貧者の銀行』として知られている。ムハマド・ユヌスが1983年に創設した。マイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした比較的低金利の無担小額保融資を主に農村部で行っている。2006年ムハマド・ユヌスと共にノーベル平和賞を受賞した。受賞理由は「底辺からの経済的および社会的発展の創造に対する努力」である。
本部はバングラデシュの首都ダッカに所在する。2006年5月現在、2,226の支店を持ち、バングラデシュにある村の86%以上にあたる、72,096の村でサービスを行っている。667万人の借り主のうち97%が女性である。

53 NPO銀行
社会貢献的な活動を行う個人や組織に対して、低金利で融資を行うような金融機関のこと。資金難に苦しむNPO(非営利組織)の新たな「資金調達先」として注目されており、近年、設立が相次いでいる。具体的には「環境保護活動」や「福祉活動」などの目的を予め定めた上で、その趣旨に賛同した個人や団体などから寄付金や出資金を募り、審査にパスした個人や団体に対して低金利で融資を行う。「apバンク」「北海道NPOバンク」などの組織が知られる。

54 プルードン
ピエール・ジョセフ・プルードン(1809~1865)。フランスの社会主義者、無政府主義者。自ら立てた「財産とは何か?」という問いに、プルードンは「財産とは盗みだ!」と答えたのは有名。
「プルードンは私的所有の弊害を見て共同所有を求めることも、私的所有の弊害を無視することも、ともに有害であるとして、人は矛盾とともに生きる覚悟を持ち、バランスを保つべく認め合い協力する「相互主義」が大切であると述べた。その思想を現実化するために1849年に27千名の会員による『人民銀行』という名の相互信用金庫を創設するとともに会員相互に通用する地域通貨を発行した」。(本山美彦著『金融権力』より)

55 イスラム金融(イスラム銀行)
イスラム銀行は、イスラム(イスラム教)の教義、慣行に基づいて運営される銀行のこと。イスラム教徒は、シャリーア(イスラム法)において利子を取ることが禁止されているため、基本的に無利子の金融機関として運営される。

56 ロシア革命
20世紀初頭のロシアに起こった一連の革命。第一次革命は、ロマノフ王朝の専制支配に対する不満を背景に、1905年1月の血の日曜日事件を機として起こり、全国ゼネスト、戦艦ポチョムキンの反乱などで頂点に達したが、国会開設勅令の発布やモスクワでの武装蜂起の失敗により鎮静化した。第二次革命は、第一次大戦での敗北や社会不安から、1917年3月に労働者や兵士が蜂起、帝政を打倒してケレンスキーの臨時政府が成立。さらに、11月、レーニンの指導するボリシェビキ(政党名)がプロレタリア独裁を目ざして武装蜂起し、史上初の社会主義政権を樹立した。

57 米騒動
米価の暴騰をきっかけとする民衆暴動。特に1918年、富山県魚津町で起こったものは全国的に広まり、軍隊が出動して鎮圧した。この事件で寺内内閣は総辞職した。

58 河上肇
河上肇(1879~1946)。日本の経済学者。京都帝国大学でマルクス経済学の研究を行っていたが、教授の座を辞し、共産主義の実践活動に入る。日本共産党の党員となったため検挙され、獄中生活を送る。カール・マルクス『資本論』の翻訳(第一巻の一部のみ翻訳)やコミンテルン三十二年テーゼの翻訳のほか、ベストセラー小説『貧乏物語』で知られる。死後に刊行された『自叙伝』は広く読まれた。名文家であり、漢詩もよく知られている。

59 マイケル・ポランニー
マイケル・ポランニー(1891~ 1976)。ハンガリーの物理化学者・社会科学者・科学哲学者。暗黙知・層の理論・創発・境界条件と境界制御・諸細目の統合と包括的全体、等の概念を1950年代に提示した。

60 カール・ポランニー
カール・ポランニー( 1886~1964)。経済学者。経済人類学の創始者とされる。経済史の研究を基礎に経済人類学の理論を構築した。
ウィーンのユダヤ人の家に生まれ、ハンガリーのブタペストに育ち、イギリス・アメリカを亡命の旅をしながら活躍、カナダに没した。

61 W・A・ルイス
ウィリアム・アーサー・ルイス(1915~1991)。イギリスの開発経済学者。1979年にルイスはセオドア・シュルツとともにアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞(ノーベル経済学賞)を受賞した。ルイスは平和賞以外のノーベル賞を受賞した初の黒人である。

62 市民革命
新興の産業資本家を中心とする市民階級が封建制を打破して、政治的・経済的支配権を獲得し、近代資本主義社会への道を開いた社会変革。17世紀のイギリス革命、18世紀のフランス革命など。ブルジョア革命。

63 原始資本主義
原始的蓄積過程にある資本主義のこと。
資本の原始的(本源的蓄積)とは封建制社会が解体し、資本制社会が成立する過程における生産様式の変化をさす。
この時期、各国では生産手段である土地から引き離された大量の農民が賃金労働者となった。彼らは法的な保護もなく非常に劣悪な条件下で働かされた。そして、それによって雇用主は大きな利潤を得た。こうして資本主義の発展の基礎を形成された。

64 重商主義
16世紀末から18世紀にかけて西ヨーロッパ諸国において支配的であった経済思想とそれに基づく政策。自国の輸出産業を保護育成し、貿易差額によって資本を蓄積して国富を増大させようとするもの。イギリスのトマス=マンらが代表。フランスではコルベールによって推進された。

65 管理通貨体制
金本位制度では、通貨の発行は、金をもとにして行われるから、経済が複雑になると、経済の動きに応じた通貨の増減が難しくなる。管理通貨体制(制度)は、通貨発行機関(政府や中央銀行)が最適と思われる通貨量を決めて通貨量を管理・調節する制度である。

66 ブレトンウッズ機構
1944年7月、連合国44カ国が、米国のニューハンプシャー州ブレトンウッズに集まり、第二次世界大戦後の国際通貨体制に関する会議を開催、国際通貨基金(IMF)協定などが結ばれた。この際、これまでの金だけを国際通貨とする金本位制ではなく、ドルを基軸通貨とする制度を作り、ドルを金とならぶ国際通貨とした。IMF体制または金・ドル本位制。

67 労働金庫
1953年制定の労働金庫法に基づき、労働組合・消費生活協同組合その他の労働者団体が協同して組織・運営する労働者のための金融機関。営利を目的とせず、会員全体に奉仕することを原則とする。労金。

68 ブラックマンデー
暗黒の月曜日とも言う。1987年10月に起こった史上最大規模の世界的株価の暴落。ニューヨーク株式市場の暴落を発端に世界同時株安となった。
1987年10月19日月曜日、ニューヨーク株式市場が過去最大規模の暴落。ダウ30種平均の終値が前週末より508ドルも下がり、この時の下落率22.6%は、世界恐慌の引き金となった1929年の暗黒の木曜日(ブラック・サーズデー)(下落率12.8%)を上回った。翌日アジアの各市場にこれが連鎖。日経平均株価は3,836.48円安(14.90%)の21,910.08円と過去最大の暴落を起こした。更にヨーロッパの各市場へもつながっていった。
しかし、日本の株式市況の早い回復、各国の政策協調によって恐慌を招くことなく終わった。

69 バブル崩壊
バブル景気とは日本の経済史上で1980年代後半~1990年代初頭にかけてみられた好景気である。指標の取りかたにもよるが、概ね、1986年12月から1991年2月までの4年3か月(51ヶ月)間を指すのが通説となっている。
過剰な投機熱による資産価格の高騰(バブル経済)によって支えられ、その崩壊(バブル崩壊)とともに急激に後退。同時に1973年より始まった安定成長期も終焉を迎え、その後の平成不況(複合不況、失われた10年)の引き金となった。

70 アジア通貨危機
1997年7月よりタイを中心に始まった、アジア各国の急激な通貨下落(減価)現象である。この現象は東アジア、東南アジアの各国経済に大きな悪影響を及ぼした。狭義にはこの現象のみをさすが、広義にはこれによって起こった金融危機を含む経済危機を指す。

71 ITバブル
1990年代後半、米国市場を中心に起ったインターネット関連企業の実需投資や株式投資の異常な高潮。情報・通信産業の急激な発展と、それに過大な期待を寄せた投資家の過剰投資によってもたらされたバブル現象である。
ドットコム会社と呼ばれる多くのIT関連ベンチャーが設立され、1999年から2000年初め頃をピークに株価が異常に上昇したが、2000年春頃、バブルははじけた。

72 ロバート・オウエン
ロバート・オウエン(1771~1858)。イギリスの社会改革家。
人間は環境によって変えられる、とする環境決定論を主張した。ニュー・ラナークで繊維工場を経営する事業家だったが、低所得の労働者階層の実情を目の当たりにし、幼少の子どもの工場労働を止めさせ、性格改良のための幼児の学校を工場に併設。性格形成学院と名づけた。幼児教育の最初の試みで、幼稚園の生みの親といわれるフリードリヒ・フレーベルよりも先んじて、就学前の子どものための学校を実践。教室での掛け軸の利用など、教育方法にも工夫を凝らした。
また協同組合などの事業も手がける。後、アメリカに渡って私財を投じてインディアナ州において共産主義的な生活と労働の共同体(ニューハーモニー村)の実現を目指すが失敗した。
著書に、『ロバート・オウエン自伝』、『新社会観』がある。 日本国内に、ロバート・オウエン協会がある。

73 阪神地区生コン協同組合
幸森俊夫理事長。阪神地区の生コン専業社(アウト企業)によって新たに結成された協同組合。08年10月24日設立。12月4日に設立記念式典を開催した。48社53工場が加盟(12月4日現在)。
既成協同組合がセメントメーカー主導であるのに対し、阪神協は「専業の、専業による、専業のための」公平で民主的な協同組合を目指している。

74 アリストテレス
アリストテレス(前384年~前322)。古代ギリシアの哲学者。中世スコラ学に影響を与えた。プラトンの弟子であり、ソクラテス、プラトンと共に、しばしば「西洋」最大の哲学者の一人とみなされるほか、その多岐にわたる自然研究の業績から、「万学の祖」とも呼ばれる。アリストテレスは「善く生きる」ためには、必要に応じた交換のみが認められるべきであり、クレマティスティケ(=金儲けを目的とした交換活動)は禁止されるべき、とした。

75 先物商品市場
先物商品を扱う市場のこと。先物取引とは、いわゆるデリバティブ(派生商品)の一つで、価格や数値が変動する各種商品・指数について、未来の売買についてある価格での取引を約定(やくじょう)するものを言う。売買の当事者が任意に期日を決め全量を受け渡すことを約する契約(先渡し契約)とは異なり、先物取引では市場が期日(取引最終日・納会日)を決め納会日までに反対売買により差金決済することが特徴である(受渡し可能な場合もある)。

76 商品インデックス(ファンド)
まず、インデックスとは日経平均やTOPIX、MSCIなどの指数のこと。これらは、対象とする市場の動向を正確に反映するように、それらの市場の銘柄すべての平均値をとっている。
そして、インデックスファンドとはインデックスに連動するような投資信託(ファンド)のこと。インデックスの値に連動してその商品価値が上下するように設定された金融商品で、それを実現するために、投資信託として集めた資金を、そのインデックスが対象とする市場を構成する銘柄に分散して投資する。
さらに、商品インデックスファンドとは商品先物を投資対象とするファンドのこと。商品インデックスファンドで取り扱われる商品先物とはエネルギー、金属、農産物など。人気の高い代表的な商品指数は、スタンダードプアーズ、ダウジョーンズAIG商品インデックス、ゴールドマンサックスインデックスなどである。

77 FX取引
証拠金(保証金)を業者に預託し、主に差金決済による通貨の売買を行なう取引をいう。「FX」、「通貨証拠金取引」、「外国為替保証金取引」などともいう。
日本では1998年に外国為替及び外国貿易法が改正されて、ダイワフューチャーズ(現・ひまわり証券)、豊商事などが取扱いを開始、ブロードバンドの普及も手伝って市場が急速に拡大した。商品先物会社、証券会社のほか、本取引を専業で取り扱う業者もある。取引の仕方によっては非常に高いリスクを負うため、実際の取引にあたっては外国為替相場に関する十分な知識や経験を要する。手持ち資金の10倍~200倍といった金額を取引することができるのが特徴。

78 メジャー
国際的な市場支配力を有する巨大会社。特に、国際石油資本や巨大多国籍穀物商社をいう。メジャーズ。

79 経済安定本部
1946年8月、内閣所属部局として経済安定本部が設置され、戦後の経済再建のための緊急対策の企画立案、総合調整などを行った。経済安定本部は、内閣総理大臣が総裁、国務大臣が総務長官となった。
その後、経済審議庁、経済企画庁にその役割が引き継がれ、現在は、内閣府などに業務が継承されている。

80 芦田内閣
芦田均が第47代内閣総理大臣に任命された、1948年3月10日から同年10月15日まで続いた日本の内閣。
前の片山内閣の総辞職に伴い、引き続き民主党・日本社会党・国民協同党を与党として発足した。1948年10月7日に総辞職し、次の第2次吉田内閣の組閣まで職務を執行した。

81 「もはや戦後ではない」
1956年7月に発表された経済白書の副題は、太平洋戦争後の日本の復興が終了したことを指して「もはや『戦後』ではない」とつけられ流行語にもなった。