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連帯ユニオン近畿地方本部は11月9日~11日、新潟県新潟市で行われた部落解放研究第44回全国集会(主催:部落解放同盟同実行委員会)に執行委員を派遣。全国から集まった労働組合や市民運動団体と共に被差別部落差別問題や人権問題に関する学習会や討論を集中的に行い、部落解放運動の進捗状況報告を受け、その課題を確認しました。

【レポート/連帯ユニオン近畿地本・K執行委員】



大きな地図で見る 場所 (全体集会)新潟コンベンションセンター「朱鷺メッセ」

当日、新潟県は暴風警報の為、新幹線は手前の燕三条駅から徐行運転(後に停電)となり、在来線は運休ということもあって定刻には間に合わず、私は会場に20分程遅れて到着しました。
集会は地元約1500名の部落解放同盟をはじめ、全国各地の部落解放同盟の方や連合・自治労をはじめとする労働組合、市民運動団体3500名以上が参加するという大規模なもので、来賓も新潟県副知事や新潟市副市長をはじめ、多数の参加がありました。
 
〈しおり(式次第)〉を広げてみると、民主党・自民党・公明党・社民党・国民新党の各党首や政調会長の激励文等も載っており、改めて本来持つ部落解放運動の歴史と社会的影響力を実感。さらに、この集会には、全国各地から5000名以上が参加しているということで、自治体をあげての町おこし合戦が繰り広げられており、会場には各地の名産品売り場が並び、配布されるレジュメと一緒に新潟県内の飲食店や文化を紹介する冊子も入り、これだけ規模の大きい集会ともなると、地元自治体に与える影響は「かなり大きい」と感じました。

 

さて、初日(9日)は開会の主催者挨拶と、〈しおり〉に載っている各団体挨拶を読み上げる形で進められ、解放同盟・新潟県連合会執行員長からは「新潟県が中越大震災や中越沖大震災、豪雨災害等の災害からようやく復興の兆しが見えてきた」との報告がありました。私は今回、基本的にホテルと会場の往復だけで、震災の爪あとを見ることはありませんでしたが、新潟県では災害からの復興と共に部落解放運動が順調に進んでいるという地元報告が印象的でした。
集会初日の最後は、日弁連国際人権問題委員会委員の大谷美紀子氏(弁護士)の記念講演があり、日本で「政府から独立した国際人権機関」を設立することの重要性を訴えられました。
 
◆大谷氏記念講演から
第2次世界大戦が終結し、現在のような国連が誕生するまで、人権問題は「各国内の問題であり国際社会が扱う問題ではない」という考えが「国際社会の一般的な考え方」とのこと。1948年に『世界人権宣言』が出来て初めて「差別なく人権を保障する」ということを国連憲章とし、「国際人権政策を実施するのは国家である」と明言、“人権を守る”ということを国家が法的に守らなければならないようになりました。その中には「政府から独立した国際人権機関を設立すること」も含まれています。
 
その後次々と関連条約が作られ、国連に加入している国は定期的に報告書を国連の条約機関に提出し、条約機関が各国の履行状況をチェックする仕組みになっていますが、日本は毎回、『国際人権機関』の設立を要求されています。そして、どこの国も「条約を守っています」と報告していますが、実際には日本でも他の国でも『国際人権機関』はいまだ作られていないのが実情であり、「条約は守られていない」と大谷氏は指摘されていました。
 
報告書をもとに条約の履行をチェックし、加盟国に是正を求めるメンバーは各国で普通に生活する人(主婦や会社員)で、個人が各国の実情を把握することは不可能であるため、色々な国のNGOが各国の報告書と実情を比べ、更に委員会に報告書をあげる仕組みであるとのことです。
また、『国際人権機関』が設立されると「実際に人権侵害を受けていた人が人権問題を訴訟で争った末に負けた場合でも、再び国際人権機関が審査する事が可能(個人通報制度)となり、人権問題に対する運動の後押しに有効である」ということを強調していました。
 
その他、大谷氏は司法試験を受験する人たちへの警笛として、「司法試験を受ける人たちは司法を学ぶ際に、試験に通ることを優先させるあまり法律の中身よりも判例を中心に勉強をする。実際に人権侵害を受けた人たちの気持ちをまるで知ろうともしない。だから、裁判官の中には明らかな人権侵害に対しても平気で被害者を排斥したりする人もいるのだ」と語っていました。そして最後に「そもそも差別をなくすことを実現しようとすれば、人権を専門とする各業種、各業界のエキスパートが人権機関を作るしかない」と締めくくり、講演は終了しました。

2日目(10日)は、7種類に分けられた分科会(構内学習会)とフィールドワーク(構外学習会)に分かれ、分科会は自由にどれでも参加できるという趣向で行われました。私は『地域主権の動向と人権・同和行政』という分科会を選んで参加しました。
この分科会を選んだ理由は『自治体のアウトソーシングの労働問題』という講演があったからです。なぜならば、私にとって「同和事業」と聞いて真っ先に思い浮かべる事業は清掃事業であり、私が連帯ユニオンで取り組んできた運動で、自治体の同和事業と清掃事業が“自治体からのアウトソーシング”で成り立っていることを経験してきたからです。
この分科会には、他にも大阪府狭山市の『事前登録型本人通知制度の取り組み報告』がされるとあって、大阪府外の自治労の人が多く参加していたようです。

この分科会での吉村氏の講演を聞き、民間委託の根本的な欠点がいくつか垣間見えたような気がしました。講演は、大阪府の自治体などが民間委託の中で一部試験的に取り入れている、政策入札『総合評価入札制度』が取り上げられ、「ダンピング競争に歯止めがかけられる制度の一例」として評価する内容でした。

◆ダンピング禁止に向けた例として、アメリカ合衆国で実際にとりいれられている制度は、
①デービス・ベーコン法
「連邦またはコロンビア特別区が当事者となる$2000以上の請負契約全てのために公示される仕様書(中略)には、最低賃金を明らかにする条項が盛り込まれていなければならない(中略)」
※この最低賃金の根拠にしなければならないのは、労働長官が相場であると定める賃金。
 
②リビング・ウェッジ条令
アメリカのボルチモア市から始まり、アメリカの各自治体に広がってきた制度で「公的機関から仕事を請け負う企業は、自治体条例として決めている賃金を下回らない賃金で労働者を雇用しなければならない」という制度。
この制度の導入により、アメリカでは全国最低賃金以上の高い賃金が保証される状況が生まれている。

この中で、労働組合としての考え方と全く矛盾する大きな点が浮かび上がったと思います。
それは、市職員が行ってきた業務の一部を民間企業が委託する場合(ゴミ収集も含まれる)、同時に市職員と民間企業で働く労働者が全く同一の作業をしても(豊中市のゴミ収集は市職員が3名で仕事をするのに対し、民間企業は2名で作業を行う)市職員と同一賃金にはならないという矛盾です。
そもそも“民間委託”というのは、「労働者に支払う賃金をダンピングしましょう」という制度であると言えます。昨今、自治体の財政悪化が進み、規制緩和・派遣法・労基法等の制度的基盤の変化から予想以上に官制ワーキングプアが拡大、これが現在では社会問題となっています。これを踏まえたうえで「委託事業に従事する労働者に対する賃金の確保」が議論されていることは、実際にその事業に従事している労働者にとって全く悪いことというわけではありません。しかし、民間委託そのものの目的が「賃金のダンピング」である以上、現在の制度を見直さなければ矛盾は解決しないと言えるでしょう。
 
講演は、結局「入札制度を中心として改革していく」という趣旨で進んでいきました。
先に挙げた大阪府自治体の『総合評価入札制度』というのは、価格による評価の低下を、その他の視点にもとづく評価の上昇でおおむね相殺する制度です。
 
例えば豊中市は、入札価格の評価を全体の「5割」とし、
●セクハラ防止の取り組み、
●育児・介護休暇制度の取り組み、
●研修や過去の業務実績、
●既雇用者に対する継続雇用や就職困難者(例えば被差別部落出身者など)の新規雇用、
といった評価等を自治体がすることによって、「入札価格が他よりも安かったからといって必ずしも落札出来るわけではない」という制度となっています。
しかし、この制度の真の目的は談合の防止と入札そのもののダンピングへの歯止めであり、実際、連帯ユニオン・委託清掃事業者たちの闘争で浮き彫りとなったことは、自治体は契約をした後は「業者に丸投げ状態」という現実で、委託された業者のもとで働く労働者のことまでは考えられていないものでした。

吉村氏は講演最後に質疑応答のコーナーを設けて下さったので、私は「自治体が業務を民間に委託する場合、法令違反・契約違反が発覚し、遅くとも第三者機関がそれを認定した場合、“これこれこの様な指導を行わなければならない”といった指針や条令を出している自治体はありますか?」と、手を挙げて聞いてみました。私が質問をしている最中、うなずいている人やこちらを注視して聞きいっている人も多く見かけ、「実際に自分の市町村で起きている」あるいは「これから民間委託を進めようとしている時にこの問題が起こりうる」と感じてくれている人が「少しはいたのかな?」という感じに見えました。
これに対して、吉村氏の回答は「残念ながらその様な指針や条令を実際に施行したり運用しているという自治体を聞いたことはありません。ご指摘の通り制度として議論されるのは、入札に関する事だけです。おかしな話ですが、『これらの制度は、全ての業者は契約してしまえば関係法令や契約類は守るもの』という前提で作られています」との回答でした。さらに私の質問に対して、「一企業が自治体の委託事業に突出したシェアを占めて、何かあった時に代わりに市の職員が対応できないという状況が作られていること自体、それが本当であれば根本的な欠陥です」と指摘してくれました。

この講演を聞いて、私が感じた根本的な制度の欠陥と問題は、
①民間委託自体が賃金のダンピングが目的である。
②制度を運用する前の想定できる問題に対しての準備がほとんど出来ていない。
③少しは改善しようという動きは見えるものの、大多数の自治体で「安かろう、悪かろう」が横行している。
④「同一労働同一賃金」という考え方はまるで持っていない
⑤制度や条令、法律を作る時に、労働側の考えや問題意識が全く反映されていない、或は労働者・労働組合の影響力が全く発揮されていない
ということです。

分科会最後に大阪府箕面市・北芝地区の取り組みが報告されました。
この報告では、現在の労働者にも共通する問題が解放同盟の中にも実際に起き、組織の存続さえも危機に直面する事態から立ち直っていく過程が報告され、非常に興味深い報告でした。
1970年以前の北芝地区の抱える問題は、
  ①部落差別による経済的な困窮(非識学、不就労、無年金)
  ②差別の結果としての「閉鎖されてきたが故の閉鎖的傾向」
でありました。
1969年の『同和対策事業特別措置法施行』に伴い、同年11月28日に部落解放同盟大阪府連合会北芝支部が結成。結成前、部落ということを世間に大きく宣伝することになることに抵抗を感じて反対する人も多く、結成にこぎつけるためにかなりの説得作業を要したということです。
1970年には、箕面市においても差別の撤廃と北芝地区住人の生活基盤安定を目指して同和対策事業が実施。
翌71年には、地区の住民の生活基盤安定を基本とし、部落解放の拠点施設として萱野文化会館が建設され、74年には部落の子供たちへの学力保障事業と部落子供会活動の推進を目指し、箕面市教育委員会所管の萱野青少年会館が建設されました。
この間にも住宅や公園、保育施設や道路整備、隣保館の建設が進み、小中高大等の奨学金、敬老祝い金制度等も出来る等、地区住民の生活基盤が年々向上していったとのことです。
その後も支部や行政の積極的な政策により地位向上を果たしていくのですが、88年・89年の箕面市教育実態調査結果は、当時の支部役員や活動家にとって大きな衝撃を与えることとなったのです。

その調査内容の一部は、
子どもの学力=「部落問題を理解しているか」等の質問
これに対して4段階【よく理解している・理解している・理解していない・全く理解していない】の回答を用意した結果、驚くべきことに80%近くの子供が「理解していない」「全く理解していない」と回答したのです。さらに同地区の親子共に自尊心がかなり低下しており、中には「北芝地区から早く出たい」という意見まで飛び出す始末でした。
地区の学生の学力向上を目指して阪大生を教師に迎えた勉強会への参加も年々少なくなり、その理由も「公務員になってゴミの収集をするから進学など考えなくてもいい」と「いつか」「どこかで」「だれかが」「なんとか」してくれるという支部、行政、同和対策への甘えがいつしか主流となって運動家が激減し、組織は壊滅の危機をむかえていったとのこと。つまりこの時期、既に同和対策事業を軸とした運動は破たんしていたのです。

そこで、北芝支部は行政闘争主導型、対処療法的手法の限界を悟り、95年の人権文化センター(ライトピア21)の全面オープンをきっかけにして、「自主・自立」を合言葉として、自己選択・自己責任・自己管理へと方針転換に踏み切ったのです。
すると、若者たちは95年の阪神淡路大震災復興支援のボランティアに自主的に取り組み、96年には部落の子供たちと部落以外の子供たちが太鼓の練習等で交流を始めました。当初は敬遠気味だった部落以外の子どもの親でさえ、時間が経つと交流を持つようになっていったのです。
そして次に、当時は閉鎖的だった低所得者で高齢層の人たちが、「毎日外に出て交流を持つ」という目的から道路や公園のゴミ拾いや清掃活動、樹木整備事業のボランティアを始めるようになりました。すると、やはり部落以外の高齢者とも交流を持つきっかけとなり、それが発展していき98年、箕面市との共同作業として立ち上げたシルバー事業が市の委託事業につながっていったのです。
99年10月には箕面市版NPO条令が施行され、2000年には箕面市の配食サービスの受託に成功。同和事業の破たんを教訓とし行政サービスの限界を悟った結果、行政単独で業務を行うよりも、より地域に密着した地域団体やNPO団体等の市民活動に任せることが有効かつ効率的であることを証明し、実践していったのでした。
本来、市民のニーズの拡大や、多様化にきめ細かに対応した行政サービスを提供するには、専門的な技術やノウハウを持つ民間企業の活力も導入するというのも理解は出来るのですが、現在の行政が受託企業を上手く活用出来ていない状況を見ると、「それも時期早尚なのかな?」とも感じます。
また、入札に参加する企業の多くが行政の仕事を受託することを「市に代わって良質な行政サービスを市民に提供します」という意識ではなく、単なる経営者の利益追求と対外的な宣伝に利用されているだけという悲しい現実が拍車をかけています。

『“いつか”“どこかで”“だれかが”“なんとか”してくれる』ではなく、「運動は自主的・主体的にしなければ、到達点には届かないどころか後退していく一方である」ことは、どこでも同じであると再認識させられた研究集会でした。

最後に、部落解放運動の学習をしに行きましたが、まさか市の民間委託の討論が新潟で出来るとは思いませんでした。制度を作る側と実際に業務に従事する側でこんなにも問題意識が違うものかということを知ったのも大きな成果でした。本来、労働組合が言う権利侵害は解放同盟の言う権利侵害と表向きには違いがありますが、本質は変わるものではなく、またその解決方法も根本的には変わらないものです。あらためて、このようなことを実感する機会を与えていただいた連帯ユニオンに感謝しています。

連帯ユニオン議員ネット