連帯ユニオン 近畿地方本部  rentai-union
連帯ユニオン 近畿地方本部 関西地区生コン支部 近畿地区トラック支部 近畿セメント支部 労働相談-ホットライン
YouTube
労働ダンピングを許してはいけない
  ■中野麻美(なかのまみ)弁護士
北海道大学法学部卒  
派遣労働ネットワーク代表、日本労働弁護団常任幹事 
○女性労働者、派遣・非正規労働者の問題に積極的に取り組み、
全国各地で法律相談や講演活動をしている。
○著書 『労働ダンピング―雇用の多様化の果てに 』(岩波書店)
他多数

   近畿地方本部09春闘幹部学習会/中野麻美弁護士講演録(要約)

 近畿地方本部は2月21日、生コン会館において幹部学習会を開催。武建一関生支部執行委員長の情勢講演につづいて、中野麻美弁護士(派遣労働ネットワーク)より、労働者派遣法の課題と問題点について話された。中野弁護士は、労働者派遣制度がすでに破綻している事実と今後の課題について提起。要点をまとめて掲載する。

 労働は商品ではない
労働者派遣法は1986年に施行。当初はIT関係職種のように専門性が強く、かつ一時的に人材が必要となる13の業種に限られていましたが、1999年の改正により禁止業種以外のほとんどの業種で解禁されました。現在みられるような派遣切り・日雇い派遣・違法派遣などの問題が起こることは、この時すでに明らかでした。
派遣契約の基本を簡単に述べましょう。左下図のように労働者は派遣元と雇用関係にありますが、仕事は派遣先の指揮・命令下でします。そして、どこで何時間働くのかなど労働条件については、派遣元と派遣先の「商取引契約」として決められます。
「商品」は普通、市場で値崩れしないよう在庫・生産・価格を調整しなければなりません。しかし、人間は毎日食べて眠り精神的バランスをとり、そうして命や労働力の再生産をくりかえします。生身の人間の労働は、売れないからといって保存したり、値段を下げたりできないのです。
このように人間は、競争原理にさらされると商品より弱くなります。そこで、人間の労働力をめぐる競争を抑制する法律がつくられました。すなわち労働基準法であり、「これ以下で働かせてはいけない」基準です。
ところが、労働者派遣法のように、労働条件が派遣元と派遣先の「商取引」で決められると、いやおうなく競争が進みます。まさに現在、派遣労働者は買いたたかれ、値崩れをおこし、究極の形態ともいえる「日雇い派遣」までも出現しているのです。「よいサービスを低価格で提供」すれば、それだけ派遣先の利益は増します。他方、労働者からのピンハネを増やせば派遣元の利益も増します。雇用責任があいまいになり、労働者は身分・賃金で差別・分断され、その結果、団結する権利まで遠ざけられたのです。

 労働者派遣法は「人身売買法」
基本的な制度上の問題を抱え、多くの労働者に犠牲を払わせてきた労働者派遣法の規制緩和は、どのようなうたい文句で進められてきたのでしょうか。それは、「人と仕事のマッチング」であり、「求職者に職を紹介する、ハローワークと同じく公共的に社会に貢献するもの」とうたわれ拡大してきました。
しかし、実態はどうでしょうか。景気後退下、雇用調整といって真っ先に首を切られるのは派遣労働者です。職を紹介し、社会に貢献するなどということには全くなっていません。さらに、労働者派遣法の大前提は、派遣元が派遣先と確認した労働条件をきっちり守らせることでした。この点についても実態は、派遣元にとって「お客様」である派遣先で労働者が不当な働き方をさせられていても、派遣元はきちんと派遣先に是正を求めず、しわ寄せが労働者にいくことがほとんどです。これらの事実からみて、労働者派遣法
はすでに崩壊しています。
ひるがえって、労働関係について定めた労働法は、「労働組合が唯一競争を抑制するものであり、産業民主化のために労働組合を育てなければならない」という思いに基づいています。労働者派遣制度は、このような労働法とは全く違う価値観で運用されているのです。しかも、職業安定法で間接雇用は禁止されています。つまり、労働契約の仲介をしてピンハネすることは禁じられているにもかかわらず、派遣という働き方を例外として誕生させたことにも非常に問題があります。

実際の派遣労働者はどのような働き方をしていたのでしょうか。具体例をあげてみましょう。
F子さんはI銀行で13年間派遣社員として働き、為替、預金、商品の販売など本来派遣対象業務ではない重要な基幹業務に従事してきました。しかし、上司からのパワハラを訴えたら、銀行はF子さんが登録型派遣労働者であるとして、一方的に解雇してしまったのです。労働ダンピングにおいては、例えば翻訳通訳の派遣では以前時給4000円だったのが、今では1800円。航空会社添乗員では今や時給800円という有様です。さらに究極の買いたたきに「日雇い派遣」があります。日雇いの身分のままなので、いつでもクビになる可能性があるのです。最も悪いのは、人件費のカットなどで利益を得る派遣先です。ドイツでは「泥棒をなくそうと思ったら、盗品を買った人も処罰しなければならない」という考えがあります。法の趣旨からかけはなれ、実態として違法な派遣によって利益をうけた派遣先に、経済的制裁や刑事罰も含めて雇用責任をとらせなければなりません。

労働者派遣法の課題をまとめると、
①直接雇用を認めさせる②派遣は例外的な雇用形態なので厳しく規制する③基本制度設計を組み直すことです。基本制度設計の課題としては、①登録型派遣は禁止にする

②派遣元・派遣先間の競争を抑制し正社員との差別をなくすことです。

この春40万人の非正規雇用労働者が職を失うと報道されていますが、今の日本にセイフティネットは機能していません。派遣労働者の多くは雇用保険にも入っていないし、社会保険制度の適用もきわめて少ないのです。仮に雇用保険に入っていても、住所を失った時には失業給付の受給はできません。しかも2週間に1度の賃金支払いが一般の派遣労働者にとって、1ヶ月も待機は死活問題なのです。再就職をするにも、住所のない路上生活者にはハローワークからの仕事の紹介は困難。仕方なく「手配師」のもとで違法なピンハネを受ける実態が浮上してきます。
不況を口実にして、まっ先に首切りされているのは派遣労働者です。しかし、みんな同じ人間であり同じ労働者です。「そういう働き方だから仕方ない」とする感覚や価値観をなくしていかなければなりません。これは、非正規で働く労働者に対して多くみられる視点です。労働者間の分断や差別をなくす世論をつくらなければなりません。

くさり No719より 

  
連帯ユニオン議員ネット